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一匹狼だった研究者がタイで発見した「仲間の力強さ」

ハウス食品・食品事業本部の藤井さんは、2018年にタイで留職しました。もともと研究者肌で論理的な藤井さんですが、留職後は「感情」も大切にして働くようになったと言います。6ヶ月にわたる留職でどのような変化が起こったのか、そしてその変化は今の業務にどう接続しているのか。当時プロジェクトマネージャーとして伴走し、現在は広報マネージャーを務める西川理菜が伺いました。

藤井 佑典氏:ハウス食品 研究所に勤務していた2018年に留職へ参加。
タイで米商品の開発・販売を通じた農家支援に取り組むSiam organic(サイアムオーガニック)にて新製品の開発等に携わる。帰国後は新規事業の企画・実施に携わってきた。

大企業から小規模なソーシャルベンチャーへ

――留職からもう4年経ちますが、現在はどのような業務を担当していますか?
いまは食品事業本部・食品事業三部として、スパイス調味料の開発に携わっています。各部門をつなげる立場なので、即断即決を求められることが多いです。すぐ決断しなければならない状況では直感力が重要になってきますが、これって実は留職で得たものです。

というのは、もともと直感で判断なんて絶対にしないタイプでした。笑
むしろ物事は分析して考えるタイプで、研究所でカレー製品の開発に携わるなかで分析思考はさらに強くなり、「データを元に思考を重ねて動く」ことが当たり前でした。

一方で入社から8年が経ち、「このまま今の仕事を続けることが、会社の成長につながるのか?」と漠然としたモヤモヤ感が生まれていました。自分の視野が狭いとも感じていて、「一度、価値観をぶっ壊したい」とすら思っていました。そんなとき留職の社内公募を見て、これだ!と参加しました。

――派遣先はタイのSiam organic(サイアムオーガニック)で、従業員6人・創業7年目のソーシャルベンチャーでしたね 

留職中は新商品の開発担当となったのですが、初日に「ここが研究室だよ」と案内されたのが一般家庭の台所でした。自社の研究室とは規模から設備まで、何もかもが違っていたんです。わかってはいたけれど、いざ現地で見るとやはり衝撃的でした。

団体の「研究室」に案内される藤井さん(写真・右)

サイアムオーガニックは小規模農家の生活向上を目指し、お米の栽培から商品開発・販売に取り組むソーシャルベンチャーでした。当時、タイの農家の収入は平均して1日0.4ドル。農作物は仲介人によって買い叩かれるなど、経済的に厳しい農家が多くいました。

そこでサイアムオーガニックでは、農家に栄養価の高い品種の米を有機栽培してもらい、付加価値を付けて富裕層や海外に販売。そこから得た収益を農家に還元する、というビジネスモデルを展開しているのだ、と代表・Niel (ニール)氏が説明してくれました。 

これを聞いたとき「その目的が実現できれば素晴らしいけど、彼らの活動は本当に農家のためになっているのかな?」と疑問を抱いた自分がいました。

サイアムオーガニックの創業者は名門大学を卒業しており、いわゆるエリート層でした。そんな彼らがなぜ農家支援にモチベーションを持っているのか?本当に農家の目線でビジネスを展開しているのか?と次々に疑問が湧いてきたんです。

団体の代表らと議論を重ねる藤井さん(写真・右)

半信半疑な状態で始まった現地活動ですが、最初は驚くほど何もうまくいきませんでした。英語への苦手意識と団体への共感を持ち切れていないことが重なって、当たり障りのないコミュニケーションをしていました。

そのため相手の本音を聞き出せず、自分の提案と相手のニーズが合致しない。お互いの認識がズレていると感じつつ、一歩踏み込めない。そんな日々が続きました。自分がここにいる意義ってなんだろうと、悶々としていましたね。

相手を心から信じられたとき変化が生まれた

――成果を出したいのにできない悔しさと不安との間で葛藤する藤井さんを覚えています。でもある日、ガラっとマインドが変わりましたよね。

サイアムオーガニックの支援先の農家さんを訪問した日から心境が変わりました。農家の方々が幸せそうに暮らしている様子や、団体メンバーとの間に築かれている信頼関係を見て、「サイアムオーガニックは本気でビジネスを通じた社会課題解決に取り組んでいるんだ」と実感しました。

農村を訪問したときの様子(本人・写真左)

そしてこのとき、ずっと斜に構えて彼らの活動を見ていた自分が恥ずかしくなったんです。同時に「彼らに貢献したい。もっとメンバーを信じて相談してみよう」という気持ちに変わっていきました。

そこでまず、課題を再定義するために改めてゼロからメンバーにヒアリングをしていきました。そこから見えてきたのは、既存製品の米粉パスタはお米の使用量が限定的という課題でした。サイアムオーガニックが目指す農家支援の仕組みを実現するには、お米をより効率的に使用できる新製品の開発が必要だったんです。

サイアムオーガニックがターゲットにしているグルテンフリー市場のなかで、市場性やニーズ、実現性などを調べ上げた結果、「米粉を使ったパンとパンケーキミックス」のアイデアに至りました。

このとき資料を作ってニールに提案したのをよく覚えています。ニールもすごく納得してくれましたし、この瞬間にサイアムオーガニックの一員として「農家さんのため」の一歩を踏み出せた実感が生まれました。

――藤井さんの表情はどんどんスッキリして、行動も変わっていきましたよね。加えてメンバーとの距離感にもかなり変化があったなと…… 

でもパンミックスの開発は文字通り試行錯誤の日々でした。毎日のように試作を作ってメンバーに食べてもらったのですが、最初は全然おいしくなくて。ちょっとしか食べてくれなかったり、こっそり捨てられたりしたこともありました。笑 

米粉のパンってうまく膨らませるのが難しくって。でもある意味、これがパンのおいしさや他製品との差別化につながるのでこだわりました。

メンバーと試作を重ねていった

パンミックスの開発で困ったときはとにかくメンバーを頼って進めました。農家さんにお願いして、米粉の粒度を変えてもらったこともありましたね。最後のほうはメンバーと目が合うだけで「何か手伝おうか?笑」と言われるくらいでした。

ひたすら試作を重ねておいしいパンが焼き上がったときは、メンバーとハイタッチして喜びました。代表のニールから「やりきってくれてありがとう。あとは任せて」という言葉をもらった時、そして彼らが本気で米粉パンのビジネス展開を検討し始めてくれたことは本当に嬉しかったです。

自分のアイデアがここまでメンバーに響いたのは、情熱が伝わったことと試行錯誤の過程を共有していたからだと思います。単に彼らにとって合理的だったからではないと思うのです。

留職で見つけた「想いを発信し、仲間と挑戦するリーダーシップ」

――現地で起きた自身の変化は、帰国後の藤井さんにどのように活きていますか?

色々な部分が変わったと感じるし、それらは自分の一部として存在し続けています。

まず「答えがわからなくてもやってみよう」と新しい環境へ飛び込み、挑戦するようになりました。以前なら失敗が怖くて飛び込むようなタイプではなかったのですが、留職後は様々な新規事業へチャレンジできるようになりました。留職で「相手を信じて仲間となり、彼らと一緒に挑戦する力強さ」を知れたことが大きいです。

仲間づくりで意識しているのは、ロジックだけでなく感情を伝えること。これは代表・ニールから学びました。彼は情熱を持って夢やビジョンを語るリーダーで、彼の話を聞くと何かできそうな気持ちになるんですよね。だから相手に何かを伝えるときは、自分の想いも発信するようになりました。

――最後に、これからどのような挑戦をしたいですか?

実は両親が桃農家ということもあり、農家さんと共創する事業をつくっていきたいです。以前より日本の農業に良い影響を生み出したいという想いはありましたが、自分の仕事と切り離して考えていました。

一方でサイアムオーガニックはビジネスで農家支援を体現していた。バリューチェーンにいる全ての人、つまり「農家・消費者・サイアムオーガニック」が、幸せになれる商品を生み出そうとしていました。彼らと過ごすなかで、自分にも何かできるんじゃないか、という気持ちが強くなりました。

実現までは長い道のりかもしれません。でもこの意思を持ち続けて、挑戦していきたいです。

編集後記 

藤井さんはなかなか心を開いてくれない時期があったりと、かなり印象深い留職の1つです!笑 一人でやっちゃった方が楽じゃんと思っていた藤井さんが、心から相手を信じた日を境にたくさんの変化が生まれたのですが、最も驚いたのはご本人だったのではないでしょうか。もともとの分析力に熱意と巻き込み力が備わった今の藤井さんであれば、なんでもできるに違いないです。ぜひ農家さんと共創する夢に向かって走っていって欲しいです!
(広報・西川)

プロジェクトマネージャー時の西川(写真・左手前)と藤井さん(左から3番目)
サイアムオーガニックのメンバーらと。

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