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サステナビリティに対する社員の当事者意識を高めるために重要なこととは?

サステナビリティ経営の重要性が増すなか、社会・地球環境の持続性を担保しつつ、利益創出もできる事業の立ち上げや実践が急務となっています。

一方で社員一人ひとりがサステナビリティについて深く考え、自分事として事業と紐づけて捉えることが難しい等の声を多く聞きます。

そこで今回、東急不動産HDと共催で「サステナビリティに対する社員の当事者意識を高めるには?」をテーマにしたイベントを2024年4月22日に開催しました。当日は30名を超える方々にご参加いただき、クレアン代表取締役・冨田さんの講演や東急不動産HDグループサステナビリティ推進部の方々による共感VRを活用した社内研修の事例ご紹介、登壇者によるクロストークなどを実施しました。その内容をまとめてお届けします!

サステナビリティが経営戦略と紐づく時代に

イベントでは、はじめにクレアン代表取締役・冨田さん(以下、敬称略)より、サステナビリティをめぐる変化やサステナビリティ部門の役割などについてお話しいただきました。

冨田 洋史:株式会社クレアン 代表取締役社長

会計・財務分野のコンサルティングに従事したのち、大学院を経て、
サステナビリティのコンサルタントとしてクレアンに参画。
財務とサステナビリティの視点を統合した
経営計画・ビジョンの策定やレポーティングなどを支援。

冨田:クレアンは主にサステナビリティ経営の実現に向けた伴走支援を行っていますが、この1、2年はサステナビリティをめぐる環境がさらに変化していると感じています。まず、サステナビリティに関する様々な規制や国際的なルール化が進んだことで、日本においても「任意の取り組み」だったサステナビリティが「しなければならないもの」へと変わってきました。

また、パーパス経営に注目が集まり、各社が自社のパーパスを再認識するようになった昨今、サステナビリティは「しなければならないもの」だけでなく「自社としてこのような社会を実現したい」という内発的な動機の要素も加わりました。

このような認識の転換によって、サステナビリティが経営戦略そのものに組み込まれていきました。今までは独立した1つの部署として「サステナビリティ部門」が存在し、社会貢献活動などを行う企業が多かったのですが、現在では経営の重要テーマとしてサステナビリティが取り上げられるようになり、経営戦略に紐づいた取り組みへと変わったのです。

冨田:つまり企業は投資家、従業員、顧客、取引先、地域コミュニティなど様々なステークホルダーからのサステナビリティに関する要請に答えていきながら、自社事業を通じた社会価値の創出が求められているのです。
 
これらを実現するために、サステナビリティ部門はステークホルダーと対話し、彼らが期待することに応えていくことが必要となってきます。そしてステークホルダーからのフィードバックを経営陣に伝えて経営戦略に反映し、全社的なサステナビリティ実現に向けた実践へと落とし込み、社員一人ひとりへの意識浸透を行う……サステナビリティ部門はこれら一連を担っています。

また社員一人ひとりへのサステナビリティへの意識浸透を行う際に大切なポイントが2つあります。まず、企業からのメッセージを発信するだけでなく、社員の「こんなことがしたい」という想いを聞き、双方ですり合わせていくことです。そして議論するだけでなく、現場を社員自身が自分の目で見て体感し、共感を生み出していくことが重要です。

「現場・現実・現物」という言葉はサステナビリティでも同じで、実際に現場を感じることで自分事化が進み、行動へとつながっていくのだと考えています。

社会課題の現場に越境する価値

続いてクロスフィールズ小沼と藤原より、NPOの視点で感じる企業のサステナビリティへの取り組みの変化や、東急不動産HDさんとご一緒した共感VRのプログラムについてお話ししました。

小沼:クロスフィールズは2011年から社会課題の現場とビジネスパーソンをつなげる事業を展開しています。SDGsやESGの興隆もあり、年々サステナビリティへの関心が高まっていることを感じる一方で、SDGsウォッシュなどが問題になっているとも言われています。

企業の本質的なサステナビリティ経営が求められているなか、アビームコンサルティング(株)が2023年に発表したホワイトペーパー『サステナビリティを企業全体の「変革」に結びつけるには』によると、サステナビリティを変革に結びつける際の一番大きなボトルネックに「社内のキーパーソンや現場が自分事として捉えてないこと」があげられており、社員一人ひとりにサステナビリティや社会課題を自分事化してもらうことの重要性がわかります。

先ほど富田さんのお話でもあったように、社会課題を自分事化する第一歩として、現場を感じることはとても重要です。その方法は様々ありますが、クロスフィールズでは360度映像を活用した「共感VRプログラム」を通じて、ビジネスパーソンの社会課題の自分事化に取り組んでいます。共感VRプログラムの1つである対話型e-ラーニングについては映像でもご覧いただけます。

藤原:今回、東急不動産HDさんに導入していただいた「対話型e-ラーニング」のプログラムは、複数名のグループで1つの映像を視聴し、その映像内にてファシリテーターから出される問いをもとにグループで対話していく、というものです。

取り扱うテーマは企業のマテリアリティに即した内容でオリジナルコンテンツとして制作し、映像やファシリテーターには社員の方々にも登場いただくことも特徴です。

東急不動産HDのサステナビリティに対する取り組み

続くセッションでは、東急不動産HDグループサステナビリティ推進部/グループ経営企画部の平井さん(以下、敬称略)より、グループサステナビリティ推進部の取り組みと社員への意識浸透について伺いました。

平井 健一:東急不動産ホールディングス株式会社
グループサステナビリティ推進部 兼 グループ経営企画部

2015年東急不動産(株)入社後、住宅事業ユニット再開発事業本部にて、
再開発事業の事業コンペ・参画後の事業推進等を担当。2021年より現部署。

平井:当社は2021年の長期経営方針として「環境経営」を、スローガンには「WE ARE GREEN」を掲げ、グループ全体としてサステナビリティ実現に向けた様々な取り組みを行っています。

2023年の日経新聞・脱炭素経営ランキングGX500では日本企業で6位にランクインするなど外部評価をいただく一方で、サステナビリティの社内浸透の観点では社員により本質的な理解をしてもらう必要性を感じていました。というのも、これまで実施してきたe-learningでは一方通行のインプットのみで、参加者の行動変容につながりづらい、受講率があがらないなどの課題がありました。

このような課題を感じていたタイミングで、クロスフィールズさんとのプログラム制作が決まりました。「グループで受講し、参加者がアウトプットする機会もある」と伺い、双方向的な内容になると感じました。

同社が実施したプログラムのイメージ図

平井:実際に制作したプログラムは、サーキュラーエコノミーをテーマとしたものです。サステナビリティをより身近に感じてもらう「サステナ月間」の一環として実施し、約1,500名の社員に受講してもらいました。

プログラムの内容はサーキュラーエコノミーをテーマに社内外の先進事例や現場の人々の想いを知り、サステナビリティの本質的な課題に触れるというもの。参加者は各部署4-6名でグループを組み、1時間のなかで受講してもらいました。プログラムでは360度映像の視聴や参加者間でのディスカッションを組み込み、インプットとアウトプットどちらも行うことで、サステナビリティを自分事化しやすい内容になったと感じています。

参加者アンケートでは「同僚とサステナビリティの課題について対話することで、新たな気づきや視点を得た」という主旨のコメントが多く見受けられました。

「プログラムへの参加を周囲の人に進めたい」という問いに対しては、アンケート回答者約1,500名のうち1,000名以上が10段階評価で7以上をつけるなど、高い評価をいただきました。

平井:今回のプログラムを実施し、「まずは感じてもらい、共感を生み出すことが重要」だと学びました。サステナビリティの社内浸透というものは、社員一人ひとりの価値観を変えるような壮大な試みだと思っており、知識をインプットするだけでは進みません。課題のリアルを感じ、それを言語化することが、サステナビリティの自分事化につながるのだと思います。  

パネルディスカッション

イベント後半は東急不動産HDグループ経営企画部 統括部長・伊藤さん(以下
敬称略)も迎えて、登壇者によるパネルディスカッションを展開しました。

小沼:まず伊藤さんより、サステナビリティ経営を実現にあたって感じていた課題と、共感VRプログラムを導入した経緯について教えてください。

伊藤:2021年より全社的にWE ARE GREENを掲げたり、サステナビリティ経営の指標として数値のKPIを設定したりしていましたが、現場レベルで社員の一人ひとりが自分事として捉え、日々の業務のなかで意識してもらうことの難しさを感じていました。そんななかでクロスフィールズさんのプログラムを知り、これなら自分事化につながるのでは、と感じてすぐに導入を決めました。

伊藤 健也:東急不動産ホールディングス株式会社グループ経営企画部 統括部長
1998年東急不動産(株)入社。経理部、財務部、リゾート事業、都市事業などを経て、
2023年度まで東急不動産ホールディングス(株)グループ経営企画部
及びグループサステナビリティ推進部の統括部長として、財務・非財務の全社戦略を担当。

冨田:たしかに、サステナビリティ経営の社内浸透は多くの企業で課題だという声を聞きます。ただ、様々な企業のサステナビリティ部門の方と対話する中で、「投資家向けの情報開示で1年が終わってしまう」と話す方が多いです。社内浸透の重要性は当然認識されており、優先順位を高くしている企業が多いものの、お金や人などのリソースがつきづらいためになかなか進まないのが現状だと感じています。

小沼:サステナビリティや社会課題に対して、社員一人ひとりの理解度や共感度にはバラつきがありますよね。関心が高くすでに行動している人から、全く関心がない人までいるなか、どの層を変えることがサステナビリティを社内浸透するカギとなるのでしょうか?

平井:当社の事例では「サステナビリティ経営の実現に向けて、自分も何かやらないといけないけど難しそう……」と思っている人々をメインターゲットにしました。なぜなら2021年から全社的なサステナビリティ経営の取り組みをしており、すでにある程度ベースの知識や共感がある人が一定数いると考えたためです。

ターゲットの絞り方は会社のフェーズごとに異なると思いますし、ターゲットによって施策の種類や内容の作り方を調整していくことがサステナビリティを社内浸透するにあたって非常に大切だと感じています。

小沼:今後はどのような施策を考えていますか?

伊藤:主に2つの方向性で考えています。1つはサーキュラーエコノミーをテーマとした取り組みを続けること。そしてもう1つは経営層へのさらなる意識浸透です。今回のプログラムは主に現場の社員に受講してもらいました。一方で意思決定者であるボードメンバーの意識変革も重要だと思っているため、今後は経営層に向けた施策も行いたいと思っています。

小沼:サステナビリティ経営の実現には、「内発性」が重要とのことですが、これを引き出すにはどのような方法が有効でしょうか?

冨田:一人ひとりが自身の経験と重ねて語り、サステナビリティに対して自分なりの文脈をつくることだと思います。加えて、行動を起こす「ファーストムーバー」を生み出すだけでなく、彼らを後押しする「ファーストフォロワー」も同じく重要です。

ファーストムーバーとして挑戦するメンバーに対して、例えば上長がフォロワーとなって応援する。そんな関係性や仕組みがあることで、組織におけるサステナビリティへの取り組みが一気に加速されると思います。

QAセッション

会場からは多くのご質問をいただきました。今回はその内容を抜粋してお届けします。

Q.VRや360度映像だからこそ得られる価値は何でしょうか?

藤原:現地訪問せずに国内外の現場を体感できる手軽さと、何度も繰り返して見れることです。現地訪問の場合は時間や金銭的コストがかかりますが、映像の場合はどちらも大幅に削減でき、より多くの方に体感いただけます。さらに映像は繰り返し視聴できるため、個人の関心に応じて探究することができ、深い気付きを得ることができるのも特徴です。

Q. 国内だけでなく、海外の事業会社やメンバーにも意識浸透する必要がある場合、どのように取り組んでいくべきでしょうか?

冨田:本質として伝えたい内容は、国内外問わず共通していると思うので、そこはブラさずに伝えてほしいですね。ただし各国や文化によって具体的な手段は異なってくると思うので、ローカライズが必要だと思います。

Q.本質的なサステナビリティ浸透の実現に向けて、どのような施策が効果的だと実感していますか?

伊藤:当社の今回の取り組みでは、サステナビリティや社会課題への「共感」を生み出すことがゴールでした。事業を通じた社会価値の創出は1つのプログラムでなく、複数の施策を組み合わせることで実現できると考えています。

小沼:サステナビリティに関するプログラムが多様化する今、どのような層の人々にどういった施策を行うべきか考えて選択していくことが重要だと思います。若手社員にどっぷりと社会課題の現場へ越境してもらう、役職者が数日にわたり社会課題の現場を訪問する、あるいは今回のような映像でより広く社員の方々への意識浸透に取り組む……

様々なメニューを組み合わせながら、自社にとって必要な施策を選んでいただくことがサステナビリティ経営の実現につながるかと思いますし、もしクロスフィールズがお手伝いできることがあればぜひご一緒させていただけると嬉しいです。

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セッション後に実施したVRゴーグルを使った体験会やネットワーキングも大盛況のうちに幕を閉じた今回のイベント。クロスフィールズでは今後もサステナビリティ浸透に関するイベントや情報発信を予定しております。ご関心のある方はこちらのフォームより、ぜひご連絡ください!

また、共感VRについては以下のwebサイトをご覧ください。

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