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パイロット人事部に聞く「留職の価値」とは?

(株)パイロットコーポレーションでは2023年より留職プログラム(新興国派遣)を導入し、社員2名を派遣しました。今回は同社人事部 部長の川島さんと人財戦略課 係長の山本さんより、留職プログラムを導入した理由や参加者の変化、プログラムの価値などについて伺いました。(以下、敬称略)

写真左から

インタビュイー

川島俊二さん:(株)パイロットコーポレーション 人事部 部長
1992年入社後、人事部人材開発、国内営業部、営業企画部(広告関係担当)を経て、
2013年に再び人事部に戻り、2023年より現職。

山本直子さん:同社人事部 人財戦略課 係長
2002年入社後、国内営業部、営業企画部(文具商品の企画担当)、
カスタマーセンターを経て、人事部にて海外駐在・出張窓口対応および
グローバル研修の企画・運営、留職プログラムの導入を推進。

インタビュワー

法幸勇一:クロスフィールズ 事業統括マネージャー。
2019年にクロスフィールズへ加入、プロジェクトマネージャーを経て現職

自律的なグローバル人財育成のために留職を導入

――はじめに貴社の人財育成戦略の方針について教えてください

川島:当社では、①幅広い視野を持ち、グローバルな視点で自ら考えて行動する ②異なる意見も認め合い、発展的コミュニケーションで組織に影響を与える ③今までにないアイデアで新しい価値を創造し、実現に向けて行動する の3つを軸とした人財育成に取り組んでいます。 

これらの背景にあるのが「自律的に行動できる人財が必要」ということです。当社の事業は売上比率の75%以上が海外市場です。これまでは日本向けの商品を海外で販売していましたが、ここ2,3年は海外マーケティングを行い、現地のニーズに合わせた商品開発に注力しています。

つまり、当社が捉える市場は日本起点から海外起点へと変化してきており、この答えのない環境でも能動的に行動し、新しい事業を創っていける人財が必要となっています。

 

――留職を導入したきっかけを教えてください 

川島:自律的に行動でき、グローバルなマインドセットを持った人財を育成するためには、海外で仕事を推進する経験が必要だと考えていました。単なる語学研修やスキルトレーニングではなくて、異文化で挑戦する「修羅場体験」をしてもらうことで、より成長できるだろう、と。

そんななか留職を知り「業務を通じて新興国で社会課題を解決するのは良い経験になるに違いない」と、導入に至りました。 

山本:人財育成として当社では様々な研修を実施していますが、社内公募により参加者を募り、面接などを経て参加者を選抜する研修は今回の留職が初の試みでした。そのため、公募時は自由参加の説明会を開いたり、派遣開始後は社内のイントラで活動の様子を発信したりして、より多くの社員に関心を持ってもらえるように工夫しています。

社内の反応はとてもポジティブで、「自分が若い頃にあったら、迷わず手を挙げていた。今の人が羨ましい」という声も聞こえてきます。 

プログラム後に感じる留職者の変化

法幸:留職第一号として、海外営業部の川上さんと津山さんの2名に参加いただきました。川上さんは23年8月から11月までカンボジアで活動し、手織り製品を通じた農村女性の生活向上に取り組む社会的企業のFair Weaveで、商品の新規販路開拓などに携わりました。

津山さんは24年1月から24年4月まで、ベトナムでアートを通じて障害のある子供の成長支援をする社会的企業のToheで活動し、Toheの手掛ける文房具製品のマーケット開拓等に取り組みました。 

川上さんと津山さんはどちらも社会課題の現場を体感しながら、商品に携わる作り手の想いを知り、同時に営業やマーケティングにも携わる……という、ものづくりの川上から川下まで一気通貫で経験されました。

彼らを留職前後で比べると、変化の幅はかなり大きい印象ですが、お二人はどのように感じていますか?  

山本:二人とも何かが変わったり、成長したりした部分もあると思います。ただ、何よりも自分が元々持っていた素質や強みに気づき、自分らしいリーダーシップの形を見つけたことで、自己肯定感があがった点が最大限の変化と感じています。 

カンボジアに留職した川上さんは、これまでの海外営業の経験を活かして、派遣先の団体に営業やマーケティングの仕組みを生み出して帰ってきました。留職中は40社以上に営業活動をするなど、周囲を巻き込むリーダーシップを発揮できたのだと思います。

川上さん本人は「グローバルに活躍できる人は頭の良い人というイメージだったけど、留職を通じてグローバル人財は”小さな変化を起こし続けられる人”だと見つけ、これでいいんだと気づいた」と話していました。

帰国後は海外営業部に戻りましたが、以前よりも積極的に、かつ楽しみながら海外からの来客や出張先の現地の方とコミュニケーションができているとのことです。 

カンボジアで活動する川上さん(写真・左)

留職を経て「自分らしいリーダーシップ」を発見

山本:ベトナムに留職した津山さんは「自分の素質をポジティブに捉えられるようになった」と話していました。津山さんは「ガンガン行動できる積極的な人がリーダーで、受け身タイプの自分はそうじゃない」と考えていたそうです。でも留職先では団体内の様々なメンバーの声を丁寧に聞き、受け止めながら業務を行うことで、チームをフォローしてまとめていくことができました。 

この経験は彼女の自信につながり、「相手からの共感を大切にして、チームメンバーに伴走していくことが自分らしいリーダーシップだと見つけられた」と話しています。また、派遣先のToheの掲げるビジョンに共感できたことも、彼女のなかでは大きかったのだと感じています。

団体メンバーとディスカッションする津山さん(写真・左) 

川島:派遣先の団体とのマッチングも良かったですよね。津山さんの派遣先は、障害のある子供をアートや文房具を通じてサポートしており、文房具や書くことの楽しさを大切にしている観点で当社との親和性がとても高かったと思います。 

山本:川上さんは手織り製品を通じた農村女性の生活向上に取り組む団体で、実際に農村に訪問して支援先の女性と出会い、彼女たちの識字率の低さに最初はショックを受けたそうです。

しかし手織り製品の売上が彼女たちの収入につながり、ひいては彼女の子供たちの教育資金になる。商品をつくる人や販売先だけでなく、「商品が売れたその先」まで見ることができたことは、彼にとってより活動する意義を感じられることだった、と思います。 

人事部の目線で感じる「留職の価値」

――留職プログラムにどのような特徴や価値を感じていますか?

山本:2人がプロブラム中、熱心に活動する様子や帰国後の報告会で想いの詰まった内容を生き生きと話す姿を見て、「このプログラムの体験が参加者や会社に与える影響は、単なる研修に留まらないな」と感じました。

現地の社会課題解決の一助となれることも、とてもありがたいことだと捉えています。当社社員がこれまで培ってきた経験を活かして現地に貢献することは、当社の企業価値の向上につながるのではと感じています。また、私たち周囲の社員も他国の状況や社会課題について、身近に考えるきっかけとなりますよね。 

川島:派遣先でビジネスを通じた社会課題の解決に携われることは留職の特徴の1つですよね。今の時代、「ものをつくって売る」だけでは企業の存在価値が認められないと実感しています。

そのため留職に参加した社員には、「ものをつくって売る」以外の方法でも世界とつながり、イノベーションを生み出すことを期待しています。留職を通じて新しい形の社会課題解決や、サステナビリティを体現する企業のヒントを見つけていきたいです。 

山本:別の観点でいうと、クロスフィールズさんがしっかり伴走してくれることもこのプロブラムのいいところですよね。その人に合った質問の投げ掛けや、鼓舞の方法を取ってくださり、嬉しく感じました。あとはプログラム中のサポートだけではなく、プロの目できちんと参加者を選考したり、ベストな団体とマッチングしてくれたり。

川島:「誰でも留職に参加できる」と言わないところはさすがだな、と。たしかに参加者と派遣先、双方にとって良い結果を生み出すためにはしっかりとした選考は必要ですよね。派遣前の安全管理や派遣1週目の現地同行では手厚くフォローしつつ、2週目からはリモートの1on1で参加者が自律的に行動するサポートをしてくれる、というバランスも良いと思いました。

留職をきっかけにキャリアを切り拓いて欲しい

――今後、どのような人に留職に参加してもらいたいですか?

山本:海外で活躍したい気持ちがありつつ、現業ではグローバルとあまり接点のない社員にも挑戦してもらいたいですね。留職を通じて自身のキャリアパスを切り拓いてもらいたいと思っています。 

川島:留職はグローバルな経験だけではなく、社会課題解決にも触れられるので、こういった経験を踏まえて成長したい人にも参加してもらいたいです。現地団体のメンバーとして一緒に仕事をし、かつ社会課題解決に取り組めることは、日本企業で働いているとなかなかできない稀有な経験ではないでしょうか。海外で活躍したい人はもちろんですが、課題解決に関心があり、その経験を活かして今後活躍したい人にもチャレンジしてもらいたいです。

インタビュー後記

パイロットさんでのプロブラムキックオフの集まりで、「社員に海外での実践経験を積んでもらえる場を提供したいんです」と事務局の方々が力強くおっしゃっていたことを今でも鮮明に覚えています。

その背景には、先行き不透明な社会情勢のなかで「世界中の書く、を支えながら、書く、以外の領域でも人と社会・文化の支えとなる」を2030 年ビジョンとして掲げ、本気で変革に取り組むんだ、というパイロットさんの熱量があることを感じていました。

これからもクロスフィールズは世界を舞台に自分らしく躍動する川上さんや津山さんのような人財の育成に貢献することで、パイロットさんの支えとなっていきたいです。(法幸勇一)