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インドで脱いだ「心の鎧」―留職から5年、ありのままの自分で組織のリーダーに

トライアンフの高井さんは2017年にインドへ留職し、それから4年後の2021年には同社で執行役員に就任しました。そんな高井さんは「留職で完璧主義から卒業して、失敗が怖くなくなった」といいます。留職での経験が今にどうつながっているのか、当時プロジェクトマネージャーとして伴走し、現在は広報マネージャーを務める西川理菜が深堀りました。

高井美菜氏:人事戦略コンサルティング等を手掛ける(株)トライアンフ取締役 執行役員。
2017年に留職へ参加し、インドで障がい者雇用に取り組むV-shesh(ヴィーシェッシュ)にて
3ヶ月にわたり活動。留職中は日本企業向けの法人営業や組織運営のサポートに取り組んだ。

とにかく失敗が怖かった

ーー留職から5年が経ちますが、かなり変化があったみたいですね。

そうですね……気づけば執行役員になっていました!笑
現在は新規案件や社内のリーダー育成研修などを担当しています。

留職に参加した時は、マネージャー代理に昇進したばかりだったことを覚えています。当時は「どう振る舞えばいいかわからないけど、失敗だけはしたくない」みたいな気持ちでした。うまく行かないことが怖かった。だから、留職も「派遣先の団体の役に立って成功しないと……」というプレッシャーが大きかったです。

そんな完璧主義の自分を変えてくれたのがインドでの留職でした。3ヶ月の活動を経て、失敗する自分も受け入れられるようになったんです。

その理由は派遣先のV-shesh(ヴィーシェッシュ)で、とにかく挑戦をさせてもらえたから。初日の顔合わせで、代表のShashaank(シャシャンク)から業務の指示は一切なくて、「僕らにできることがあれば教えて」とさえ言われたんです。何かタスクが渡されると思っていたから驚いたと同時に、「自分で仕事を創っていいんだ」という意識が芽生えました。そこから何でも挑戦していったんです。

ーー「自分で課題を見つけて、仕事を創らなければならない」というのは、通常の業務と留職の違いかもしれません。その状況でも高井さんはがむしゃらに行動していきましたよね。

当時、ヴィーシェッシュで私が担当したのは障がい者を雇用する企業を増やすことだったので、まずはひたすらテレアポをしました。そしたら思いのほか商談が取れたんです。この時、「悩んで立ち止まるのではなく、挑戦したら道は開けるんだ」と体感しました。

心の鎧を脱いで見つけた「自分らしさ」

ーー派遣前に「とにかく失敗しないように準備してしまう」と言っていた高井さんを私もよく覚えています。留職で挑戦を繰り返すなかで失敗への意識は変わりましたか?

たしかに留職中は失敗をたくさんしました。テレアポして商談につながっても契約には至らなかったり、相手に説明してもヴィーシェッシュの取り組みになかなか共感してもらえなかったり……。でも、これで心が折れたことはありませんでした。むしろ失敗したら次はどうすればいいのかを考えて、行動につなげていくのが楽しいとすら感じるようになったんです。

団体メンバーと議論を重ねる高井さん(写真・右)

そして留職して1カ月が経つころには「失敗したくない」とか「自分の発言が相手にどう捉えられるか」という不安は消えて、自分の感じていることを素直に周囲へ伝えられるようになっていました。この背景には、そんな私をいつも受け入れてくれたヴィーシェッシュのメンバーの存在が大きいですね。

そして3か月間の活動の最終日、シャシャンクから「今のあなたはとても明るくて活き活きしているけど、日本でも同じようにいられる?」と問いを投げかけられたとき、瞬時に「いける!」と思いました。

インドで飾らない自分をさらけ出したら、周囲に受け入れてもらえたことが自信になったんです。失敗してもいいんだ、と「完璧じゃない自分」を許せるようになって。だから日本に帰っても大丈夫だ、と思えたんですよね。

今でもたまにシャシャンクからの問いを自分へ投げかけて「ありのままの私でいられているか?人目を気にしすぎてないか?」と振り返るようにしています。

高井さん(写真・左)とヴィーシェッシュ代表のシャシャンク氏(写真・右)

だから帰国したばかりの時は、若手社員が「昔の自分」に見えて驚きました。「ミスをしたくない、うまくやらなきゃ」という意識から、鎧でガチガチに固めて自己防衛しているように見えたのです。

それを見て、ありのままで働く感覚を彼らにも分けてあげたい!と思いました。挑戦による失敗は怖くないよ、と伝えたかったんです。

だからこそ、チームメンバーには積極的に挑戦してもらって、失敗したら一緒に対応を考えることを意識しています。

失敗は「一人ひとりのリーダーシップを伸ばす最高のエサ」。ただ、防げた失敗を繰り返すことは成長にはつながらないので、それを避けるために「ミス防災訓練」を実施しています。過去の事例を共有し、防げる失敗は起こさないようにチームで心がけているんです。

インドで見つけたリーダーシップと組織のあり方

ーー高井さん自身のリーダーシップ像に変化はありましたか?

派遣前はリーダーって「役職」だと考えていました。マネージャーの下のポジションがリーダーだと。でも留職中にマネージャーは組織を安定的に運営する「役割」で、リーダーは誰でもなれる「あり方」なんだと考えるようになりました。

というのも、留職中に周囲を巻き込みながら、どんどん行動することを繰り返していくうちに、ふと「これってリーダーシップだな」と気づいたんです。この感覚は今でも変わっておらず、誰もがリーダーになれると思っています。

留職ではリーダーシップだけでなく、組織のあり方についても新しい視点が生まれました。

ヴィーシェッシュや障がい者の就労支援に取り組む団体や企業は、「どうしたら一人ひとりの力が最大化できるか」ということを最初に考えて、そこから役割やポジションを作っていました。つまり「人ありき」で組織制度を作っていたんです。

通常は「ポジションに合致する人を採用する」ことが大半なので、これにはハッとしました。誰もが活躍できる環境を組織全体でつくっていくことが、一人ひとりの働きやすさにつながる。そうして個性や強みを活かすことで、より良い組織になる。そんな考え方を知ることができました。

インタビューに答える高井さん(写真・右)と
当時プロジェクトマネージャーとして担当した西川(写真・左)

一方で「より良い社会」への道のりの長さを実感したのも留職です。

ヴィーシェッシュはインドで障がい者の就労支援をしていますが、インドは買い手市場。企業がわざわざ障がい者を雇用する理由はありません。そんな状況で障がい者を雇用する必要性について企業の理解を得ることは非常に時間がかかります。

それでもヴィーシェッシュは地道に、そしてたしかに共感してくれる企業を増やしていました。こうした小さな変化の数々が社会を変えていくんだと実感しました。

留職は心のなかにある「いつでも帰れる場所」

ーー最後に、高井さんにとって留職を一言で表すと何でしょうか?

「いつでも帰れる場所」ですね。留職の3ヶ月は帰国後も心の中にずっとあって、何かあったら立ち戻れるんです。

留職の派遣期間が完了したとき、これで終わりだとは感じませんでした。
もちろんヴィーシェッシュでの活動が終わった寂しさはありました。でも自分としては、これからだ!という気持ちが強くて。

「留職のときみたいに、どんどん挑戦してみよう」という気持ちが今日まで続いている感覚です。

編集後記

高井さんの留職は5年も前のことですが、インタビューではお互いタイムスリップしたかのように当時の情景を思い出せたことに驚きました。それほどこの留職は高井さんにとっても、プロジェクトマネージャーだった私にとっても「原点」になっているんです。

留職当時は新しい肩書きを与えられ緊張していた彼女が、インドで徐々にその鎧を脱いでいき、「自分らしいリーダーシップ」と出会った3ヶ月。今も当時の色鮮やかさをそのままに、彼女の支えとなっていることがとても誇りです。今後も彼女の活躍を心から応援しています!(広報・西川)

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