
ダイバーシティとは?注目される背景と人事にできること
いま、日常生活においてダイバーシティという言葉が一般的になってきています。現在これほど注目されるのはなぜでしょうか。この記事ではダイバーシティの概念や広がりの背景について説明します。また、企業でダイバーシティを導入する際のポイントもお伝えし、特に人材領域が注意しておきたい点を紹介します。
ダイバーシティとは
ダイバーシティ(diversity)とは「多様性」「相違点」「多種多様」など、性質の異なる様々な属性が同時に存在している状態のことを指します。文脈によって意味はさまざまですが、ビジネスシーンでは「組織やグループの中に多様な人材が集まっている状態」として表現されます。日本におけるダイバーシティは女性の活躍・管理職登用、障がい者・外国人の積極的な雇用などで用いられるでしょう。このダイバーシティの詳細な分類について、ダイバーシティとともに語られるインクルージョンとあわせて紹介します。
■ダイバーシティの分類:不変的・可変的
中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』によると、ダイバーシティは主に「変えることができない・できる」「目に見える・見えない」で分類ができます。変えることができない・できる、つまり不変的なのか可変的なのかについては以下のように整理されています。
・不変的属性(選択不可):性別、年齢、人種、民族、国籍、出身地、身体的特徴、価値観 など
・可変的属性(選択可能):経歴、教育、職務経験、未婚・既婚、所属組織、勤務形態、収入、働き方、ライフスタイル、趣味 など
※以下出典より
出典:中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』
■ダイバーシティの分類:表層的・深層的
もうひとつの分類、目に見える・見えない、つまり表層的な属性か、深層的な属性かについては、以下のように分類することができます。
・表層(可視):性別、人種、身長、年齢、体型 など
・深層(不可視):LGBTQ、コミュニケーションスタイル、価値観、受けてきた教育、習慣 など
※以下出典より
出典:中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』
■ダイバーシティ&インクルージョン
ダイバーシティと共に注目を集める概念が「インクルージョン」です。インクルージョン(inclusion)の語源は英語における「包括」「包含」で、ビジネスの世界において「ダイバーシティ&インクルージョン」として表現されることが多いでしょう。「ダイバーシティ&インクルージョン」をわかりやすく表現するならば「人材の多様性(=ダイバーシティ)を認めて、その状態を受け入れ、活用すること(=インクルージョン)」となります。
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日本でダイバーシティが注目される背景
ダイバーシティは2000年代初頭から徐々に浸透してきましたが、最近では特にビジネスにおいて普及が広まっています。その背景には労働人口の減少、働く価値観の多様化、グローバリズムが関連しているといえるでしょう。
■労働人口の減少・人材不足
少子高齢化が加速する日本において、働き手となる若い世代は減少しています。そのため、企業は人材の確保が困難になっており、状況はさらに悪化することが予測されます。「20-30代の男性を積極的に採用」など偏った採用を行っている企業は、人材確保がより困難になっていくでしょう。
■価値観の多様化と旧来の企業文化との齟齬
これまで日本における就業の概念は、就職というよりも「就社」でした。これは一度就職した企業には定年まで勤続し、プライベートよりも仕事を優先するというものです。しかし、2000年前後に生まれたいわゆるZ世代は、仕事のやりがいを重視したり、個性を活かせる仕事を求めたりする傾向が強くなっています。そのため、企業が未だ終身雇用を前提とした採用を行っていると、求職者と齟齬が生じることになってしまいます。企業は多様化している働くことへの考えや価値観を理解し、ダイバーシティを意識した経営を行うことが必要になってきています。
■グローバリズムの拡大
人口減少などの影響で国内需要が縮小するなか、海外市場に進出する動きが加速し、ビジネスのグローバル化が進んでいます。海外で現地の人材を雇用する、国内で外国籍の人材を採用する、などのケースも増えてきており、組織経営に国籍や経歴にとらわれない多様な人材や価値観を取り込む必要性が高まっています。
ダイバーシティを推進するための人材施策
ダイバーシティを組織に導入することは人材領域に携わる人にとって重要なテーマのひとつです。ダイバーシティ経営に向けて必要な施策には様々なものがありますが、以下では3つの施策について紹介します。
■施策01:ワークスタイルに柔軟性を取り入れる
「働くこと」に対する価値観は一人ひとり異なります。様々な価値観をもつ社員がそれぞれの個性を発揮するためには、柔軟性をもったワークスタイルの環境が必要です。実現に向けて人材領域で実施できることを主に3つご紹介します。
・育児・介護休業の推進:育児や介護による休業制度は、多くの企業が導入しています。しかし、「迷惑がかかるので休みづらい」「男性だけど育児休業を取得することに抵抗を感じる」など、利用しにくいという声が現場からあがることも少なくありません。制度を活用してもらうために、不利益な評価にならないような人事制度を確立することや、実際に休業を取り入れた人が体験談を伝えるなどの施策が重要になってきます。
・裁量労働制やフレックスタイム制の導入:働き方に対する価値観も人それぞれ異なります。ワークライフバランスを重視する人もいれば、猛烈に仕事にのめり込みたい人もいます。業務の対価についても、かかった時間で考える、成果自体で図るなどさまざま。このような業務に対する価値観の違いを吸収するため、裁量労働制やフレックスタイム制を導入するなど、柔軟な対応が求められてきます。
・テレワークやサテライトオフィスの導入:新型コロナウイルス感染症によって、必ずしもオフィスに出勤する必要性がないことを実感した企業もあるでしょう。多様なワークライフバランスを実現するためにもテレワークやサテライトオフィスを導入し、働く場所を柔軟に選択できるような制度と環境整備が求められています。
■施策02:働きやすい職場環境の改善
「働きやすさ」を生み出すことも人材領域が担当する施策の1つです。具体的には以下の施策が考えられます。
・相談窓口の設置:ダイバーシティに関する相談窓口を社内に設置し、不安や悩みなどを気軽に話せる仕組みを作ります。ダイバーシティに関して深い知識をもった人が担当することで、話しやすい雰囲気づくりにつながるでしょう。
・多様性に配慮した設備の導入:例えばジェンダーレストイレを一部に採用したり、ユニバーサルデザインを取り入れたりするなど、オフィス環境に関しても多様性の配慮することで、ダイバーシティを受容する組織風土の醸成につながるでしょう。
■施策03:多様性の理解を深める研修の実施
社員一人ひとりに多様性の理解を深めるためには研修が大切になってきます。座学でダイバーシティの概念を理解するだけでなく、実際にマイノリティと呼ばれるLGBTQ、障がい者、外国人の方々などと対話する機会があれば、より一層ダイバーシティへの理解が深まるでしょう。
当事者との対話を通じて、相手がどのように感じているか、どんな時に傷ついたりストレスに感じたりするかなどを知ることにつながります。自分とは異なる人々と対話し、違いを受け入れることが、多様性への理解の第一歩となるでしょう。
ダイバーシティ経営の加速は人材領域から
近年、さまざまなシーンで耳にする「ダイバーシティ」ですが、企業においてはダイバーシティを導入するだけではなく、インクルージョンと合わせて施策を行うことが重要となっています。
この記事では、人材領域の担当者がダイバーシティ経営の推進に向けてできる施策として、ワークスタイルに柔軟性を取り入れる、働きやすい環境づくり、多様性の理解につながる社内研修の実施などご紹介しました。まずは自社が抱えるダイバーシティ&インクルージョンにおける課題を見つけ、解決に向けた施策を考えてみてはいかがでしょうか。
NPO法人クロスフィールズは、社会課題体感フィールドスタディやVRワークショップなど「多様な人や価値観と出会う」事業を通じて、企業のダイバーシティ経営加速を支援しています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。