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人権問題とは?企業が取り組むべき課題を解説!

1948年に国連総会で「世界人権宣言」が採択されてから、人権問題は国際社会の重要なテーマのひとつであり、ビジネスにおいても重要な課題となっています。「全ての人が生まれながらに持ち、人間らしく尊厳を持って幸せに生きるための権利」などと定義されている人権について、今回は企業に焦点を当てていきます。

企業における人権問題を理解するために、企業が起こしうる人権問題や、人権問題に企業が取り組む必要性、人材領域の人権問題への取り組みかたを解説します。

企業が起こしうる人権問題とは

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企業活動において、人権問題は深く関係しています。企業が利益を追求するあまり、企業活動が人権侵害につながる可能性があるためです。ここでは企業活動によって起こりうる人権問題について解説します。

■企業活動をグローバル展開する際の人権課題

市場のグローバル化が進み、海外展開を視野に入れる日本企業も増えてきました。企業が海外展開をする際に重要な点が人権侵害国との取引や投資を行わないようにすることです。児童労働や強制労働など日本では起こりにくい人権侵害にも目を向けなければなりません。

例えばコンゴのコバルト鉱山では児童労働が問題視され、供給先の大手IT企業数社が間接的に人権侵害に加担しているとみなされました。その結果、アメリカの連邦裁判所において人権団体が集団訴訟を起こす事態へとつながった事例があります。

■企業活動で起こりうる人権侵害

企業活動の結果、消費者の人権を侵害することがあります。昨今、あらゆる業種において消費者の個人情報をマーケティングに活用する機会が増えてきました。個人情報はプライバシーの権利として保護されるべきものだと位置づけられています。

2017年の「改正個人情報保護法」によって規制が強化され、プライバシーポリシーの明示やオプトインで事前に使用許諾を得ることなどが義務付けられています。企業は個人情報の取り扱いに十分注意し、プライバシーの権利を侵害しないよう努めることが求められています。

個人情報の漏洩にも対策を講じる必要があります。過去には個人情報の漏洩が企業への大きなダメージにつながった事例があります。その1つが、とある日本企業において業務委託先元社員が顧客情報を不正に取得し、約3,504万件分の個人情報を名簿業者3社へ売却した漏洩事件です。この事件では消費者の1万人以上が原告となる集団訴訟が起こされたり、経済産業省から個人情報に基づく勧告が出されたりするなど対応に追われ、当該企業は損害賠償の支払いや社会的信用の喪失といった大きなダメージを受けました。

■企業内部で起こる人権侵害

女性や障がい者、外国人労働者、性的マイノリティに対する差別などの人権侵害が起こっていないか、企業は職場環境や人事業務を精査する必要があります。偏見や差別などの人権課題を解決するための積極的な施策をとっていない場合、企業側に一定の責任があるとみなされるためです。

これは国連人権理事会において採択された「ビジネスと人権に関する指導原則 (Guiding Principles on Business and Human Rights)」に明記され、放置すれば企業のコンプライアンス問題にまで発展する懸念もあります。

企業が長時間労働を強要することも重大な人権侵害のひとつといえます。社員の過重労働が発生しないようにするには、ITテクノロジーの活用や勤怠・労務管理が重要です。長時間労働の防止に成功した事例として、北欧雑貨・アクセサリーの販売を行う株式会社クラシコムの取り組みがあります。同社では制作請負やイベント出店など相手の事情に従わざるを得ない仕事を断ることで、18時退社の徹底や基本的に残業をしない働き方を実現させています。

人権問題に企業が取り組む必要性とは

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セクハラやパワハラ、長時間労働などの人権問題は、企業が取り組むべき課題です。これらの人権問題への対応しだいでは企業価値に多大な影響が出る場合があります。SDGsやCSR(企業の社会的責任)の観点からも、企業の人権課題への取り組みが注目されています。

■企業が人権問題に取り組むべき背景

戦後、企業活動における人権尊重への関心が高まり、国連を中心に議論が活発化しました。2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が合意されるなど、企業は人権問題を重視すべきであるという国際論調が高まっています。2020年には日本政府も「『ビジネスと⼈権』に関する行動計画」を策定し、人権課題に取り組む日本企業が正当に評価を得る環境づくりを掲げました。

また、企業の人権保護の取り組みは、「ESG投資」を構成する「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」のうち、社会とガバナンスにも深く関わるテーマです。さまざまなステークホルダーが、より一層企業の人権に対する姿勢に意識を向ける時代になったといえるでしょう。

■国連の指導原則は企業に「⼈権を尊重する責任」を求める

日本政府は「『ビジネスと⼈権』に関する行動計画」のなかで、国連の指導原則に沿って対応するよう期待の表明をしています。国連の指導原則とは、「⼈権⽅針の策定」「⼈権デューデリジェンス」「苦情処理メカニズムの構築」の3つです。

「⼈権⽅針の策定」では、⼈権を尊重する責任を果たすというコミットメントを企業⽅針として発信することが求められています。これには以下の5つの条件があります。①企業トップが承認する②社内外からの専門的な助言を受ける③従業員と取引先、製品やサービスの直接的な関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記する④一般に公開され、全社員、取引先、他の関係者に向け社内外に周知する⑤企業全体に定着させるため事業方針と手続きに反映する

事業活動で⽣じる⼈権侵害のリスクを企業が把握し、予防策や軽減策を講じる「⼈権デューデリジェンス」も必要です。人権への悪影響の評価、人権侵害の予防、反応の追跡検証、悪影響への対処について情報発信といったプロセスが要求されます。

「苦情処理メカニズムの構築」とは、⼈権侵害が⽣じたときに救済制度へのアクセスが保証されていることを意味します。司法的ないし非司法的な苦情処理メカニズムにおいて、すべての当事者と利害関係者がアクセスできる仕組みが必要です。

企業の人材領域が人権問題に取り組むには

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「企業市民=企業は利益を追求する以前に善良な市民であるべき」という考え方に基づき、人権尊重を企業方針に打ち出す企業が増えてきています。企業全体として見れば人権課題へのアプローチ方法は数多くありますが、ここでは特に人材領域で行うべき取り組みを紹介します。

■社内のハラスメントを根絶する

ハラスメント(嫌がらせや不快感を与える行為)は多岐にわたり、企業内の人権問題に密接に関係しています。パワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメント、モラル・ハラスメント、アルコールハラスメントなどが職場で起こりうる典型例です。

ハラスメント行為の周知や予防の徹底のほか、内部通報制度の整備や相談窓口の設置などの対策が考えられます。

■雇用や待遇で差別と偏見をなくす

性的マイノリティや障がい者、外国人であるというだけで差別し、能力があるにもかかわらず雇用や待遇において不利益を与えることは人権侵害にあたります。

多様性のある人材が活躍できる職場環境を構築することはもとより、公平で公正な人事制度を導入や社員が成長し続けられる人材育成制度の設計などの取り組みが大切です。

■人権研修をおこなう

人権尊重の考え方を企業方針に取り入れることに伴い、人権に関する研修を行う企業が増えてきました。人権課題の解決には制度だけでなく社員の意識を変えることも重要であるため、自身のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を認識し理解する研修も有効です。

法務省が行っている人権研修を活用するのもいいでしょう。企業や組織の要望に応じて全国の法務局または地方法務局から無料で講師を派遣し、「大人の人権教室」と題した研修が実施されています。2019年には全国で1,800回近くも開催され、参加総数は約8万人でした。

人権問題は企業も関心を向けるべき課題

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人権問題は多岐にわたるため、何らかの形で企業活動に関わるケースが多いものです。人権侵害を防ぐことはもちろん、積極的に課題解決に取り組むことが企業に期待されています。人権課題への取り組みに関しては、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や日本政府の「『ビジネスと⼈権』に関する行動計画」に則って行う必要があります。

昨今ビジネスシーンで話題となっているESG経営においても、人権はS(Social)やG(Governance) と密接に関連しており、ESG投資で評価されるポイントです。企業は人権侵害を防ぐだけでなく、積極的に人権問題に取り組むことで、ESG経営の加速につながるでしょう。

NPO法人クロスフィールズは、社会課題体感フィールドスタディなどさまざまな事業を通じて、企業のESG経営の加速を支援しています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。


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