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実践者に聞くサステナビリティトランスフォーメーション(SX)への第一歩

2021年12月9日、サステナビリティトランスフォーメーション(以下、SX)をテーマにしたオンラインセミナーを開催しました。当日はサステナビリティ経営コンサルティングのクレアン代表・薗田氏とNTTサービスイノベーション総合研究所長・大野氏をお迎え。ESGやSDGsの認知によって広まるサステナビリティに企業がどう取り組むべきか、議論を深めました。

サステナビリティトランスフォーメーション(SX) とは?

最初にクロスフィールズ代表・小沼よりSXの概念と、この概念が生まれた背景や実践するうえで大切なポイントをお話しました。

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小沼大地:NPO法人クロスフィールズ創業者・代表理事
青年海外協力隊、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2011年クロスフィールズ創業。

小沼:昨今、企業の世界においてもSDGsやESGの概念が急速に広がっています。一方でポーズだけ取って本質的な行動は起こさない「SDGs ウォッシュ」も見受けられると感じています。この状況に一石を投じるのがサステナビリティ・トランスフォーメーション、通称SXという概念です。2020年に経済産業省が提唱し、注目が集まり始めています。経産省によるSXの定義は以下の通りです。

「社会のサステナビリティと企業のサステナビティを同期化し、長期の時間軸の中で、社会課題を経営に取り込むことで企業の稼ぐ力を強化していくこと」(参照:サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ)

つまりSXとは、企業が利益創出をしながら、社会・地球環境が持続することを同時に目指す概念だと言えるでしょう。

企業がSXを実現するには、以下の3つがポイントだと言われています。

①企業として稼ぐ力を中長期で持続化・強化する
②未来の社会像からバックキャストし、社会のサステナビリティを経営に取り組む
③長期的な時間軸で企業と投資家が対話する

それぞれ大切ですが、クロスフィールズとしては特に②の部分がSXの根幹だと考えています。 

私たちは創業以来、企業で働く人と社会課題の現場をつなぐ事業を行っています。そのなかで、ビジネスパーソンの方が社会課題の現場での原体験をもとに「理想の未来像」を描き、実現に向けて行動していく様子を何度も目の当たりにしてきました。この経験から企業がSXを実現するための第一歩は「ありたい社会を一人称で描いてリーダーシップを発揮すること」だと思っています。

サステナビリティトランスフォーメーション(SX)が必要な理由

続いてクレアン代表・薗田氏より、企業のSXが重要な理由や企業の取り組み方についてお話いただきました。(以下、敬称略)

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薗田綾子:(株)クレアン 代表取締役
1988年の創業以来、延べ約800社のCSRコンサルティング等に携わる。公益財団法人みらいRITA代表理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム事務局長、環境省持続可能な開発目標(SDGs)ステークホルダーズ・ミーティング構成員などを歴任

薗田:これまで20年以上にわたり一貫して企業のサステナビリティ経営支援に携わってきました。私がこのような事業を続けている理由は、地球の持続可能性に危機感を抱いているからです。「プラネタリーバウンダリー」と呼ばれるように、産業革命以降の経済社会が引き起こした負担は地球環境に大きな負担を生み出しています。特に変化が激しいのが生態系の喪失と気候変動。これらの変化は人々の生活にも影響を与え、このままでは地球環境と人間社会どちらも持続できません。乗り越えるには国や企業、個人が協力して、持続可能な社会に転換していくことが必要です。

この文脈において企業のSXはとても大切です。SXの実現には小沼さんも紹介していた「未来視点での経営戦略」に加え、サーキュラーエコノミーへの転換とダイバーシティ&インクルージョンも重要だと考えています。前者は再生可能エネルギーをはじめ資源循環の活性化を行うこと。後者は多様な人と連携してイノベーションを起こしつつ、社会課題に取り組むことを指します。このような取り組みを通じて企業のSXは前進するでしょう。

これらの取り組みの根幹となるのが「パーパス」です。企業として、自分たちが未来に存在する意義(パーパス)を描き、その達成に向けて行動を起こしていくことが重要なのです。

日本企業でのSX実践例:NTTグループ

NTT大野氏からは、NTTグループが目指す社会と実現に向けた取り組みを伺いました。(以下、敬称略)

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大野友義:日本電信電話(株) サービスイノベーション総合研究所長
1989年に日本電信電話(株)入社、99年(株)NTTドコモへ転籍。2017年より執行役員イノベーション統括部長および(株)NTTドコモ・ベンチャーズ取締役を兼務。2020年6月より(株)みらい翻訳代表取締役社長を兼務。2021年7月より現職

大野:私は2021年に研究所長として着任後、すぐに中期研修計画に取り組みました。2ヶ月で策定した計画に共通していることが「ひとのWell being(ウェルビーイング)」の実現です。ウェルビーイングとは「すべての“ひと”が幸福であり、安心・安全に自分らしく暮らせる」こと。さらに個人だけでなく社会の、つまりソーシャルウェルビーイングを目指しています。

具体的な取り組みとして、ある日本の地域で行っているプロジェクトがあります。それは地域住民の方々が交流するコミュニティサロンを運営し、そこでの雑談から地域住民の困りごとを見つけて、解決につながる事業を考えていく、というもの。住民の方々の声を反映した事業を行うことで地域社会のウェルビーイングにつながると考えています。

ソーシャルウェルビーイングは私のビジョンでもあります。このビジョンを見つけたのは2019年、ルワンダでのこと。クロスフィールズが主催する役職者向けフィールドスタディへの参加がきっかけでした。現地で1994年に発生したジェノサイドを乗り越えた方々の話を聞くなか、人々が支え合って生きていることの重要性を強く実感。自分も周りとのつながりを大切にしたいと今まで以上に感じたのです。この考えを社長はじめ社内の人々に伝え、我々として何をしたいのかを突き詰めていった結果、「ひとのウェルビーイング」という中期計画の策定に至りました。  

クロストーク
続く時間では薗田氏、大野氏、小沼によるクロストークを展開しました。

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大企業がサステナビリティ経営につまずく理由と乗り越え方

小沼:多くの企業がサステナビリティ経営に舵を切ろうとしていますが、うまくいかないという声をよく耳にします。なぜでしょうか?

薗田:原因の1つに過去の成功体験から抜け出せないことがあると思います。新しい取り組みに対して社内から「前例がない」などの理由で反対意見が出てしまい、頓挫してしまうのです。

大野:大企業だと特にそうかもしれません。当社は積極的に若い世代と対話し、常に未来の視点を取り入れることを心がけています。たとえばドコモ在籍時に策定したサービス中期ビジョンは外部のZ世代と議論し、その内容を踏まえて策定していきました。

小沼:世代を超えた対話は大事ですよね。私もプログラムを実施するなか、役員層の方々が若手社員から刺激を受けている姿を多く目の当たりにしました。オープンな対話をする機会は普段の業務だとなかなか生まれない場合も多いので、世代を超えたメンバーが集まり、一緒に「非日常」の世界を経験する機会が大切かもしれませんね。

ダイバーシティの実現に向けて始められることは?

小沼:お話のなかで「ダイバーシティ」もキーワードだったかと思いますが、実現のためどんな取り組みから始められるでしょうか?

大野:異なる環境に飛び込み、人々と対話する経験が大切だと思います。私はその際に「組織の人間」ではなく「一人の自分」として相手と接するようにしています。この姿勢はルワンダでの経験から学んだことです。ルワンダは国としてテクノロジー(ICT)による発展を掲げています。私は訪問するまで「ルワンダはICTで豊かになっている」と思い込んでいました。でも実際、現地の山村で暮らす人々を見て「ICTそのものは手段であり、それだけで人を幸福にすることは出来ない。人を中心に考える必要がある」と感じたのです。これは一人称で現地の人々と対話し、先入観が取れたからこそ実感できたのだと思っています。 

薗田:社外に出る、いわゆる越境から異なる環境や価値観の理解につながりますよね。普段は出会わないような人と話すことで新たな発見がたくさんあるはず。自分が知っている世界の延長ではなく全く知らない環境に飛び込み、人々の話を聞いていくことが大切だと思います。

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セミナーはお二人からの

ー日本人という枠を超えた地球人として、一人ひとりが未来のパーパスを考えることが大切だと思います(薗田)
ー人間の潜在的な価値を信じることが、誰もが活躍できる社会につながるのではないでしょうか(大野)

というメッセージで幕を閉じました。

参加者の方々からは「3名がサステナビリティにかける想いを力強く語る姿が印象的だった」「まずは自分のビジョンを見つけ、どのようにSXに取り組めるか考えていきたい」などのコメントが寄せられています。 

なお、大野氏が2019年に参加した役職者向け社会課題体験フィールドスタディの様子は以下よりご覧いただけます。

クロスフィールズは2022年も各種セミナーを開催してまいります。
どうぞお楽しみに!


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