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BOPの意味とは?企業のサステナブルな貢献と人事にできること

「世界人口白書2021」によると、2021年の全世界の人口は78億7,500万人で、2020年と比べて8,000万人増加しました。このうち半分以上が低所得者層といわれ、人口ピラミッドの底辺をなすことからBOP(Base of the Pyramid)と呼ばれています。世界的に見て市場規模が大きいBOPについてその概念を把握し、企業がBOPビジネスに取り組む際に人材領域の担当者が貢献できるポイントを説明していきます。

BOPの意味とは

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そもそもBOPとはどのような意味か、そしてBOPビジネスとはどのような事業なのかを説明します。BOPペナルティといわれるBOP層が受ける不利益についても理解しましょう。

BOPとは

BOPとは「Base of the(economic)Pyramid」もしくは「Bottom of the (economic) Pyramid」の略です。直訳すると「ピラミッドの(経済的な)下層部」となります。このピラミッドとは、世界の所得別の人口構成を上から、富裕層、中間層、低所得者層と三段階で分類したもの。ピラミッドの下層部はBOP、すなわち低所得者層を意味します。どれくらいをBOPと定義するのかは様々な見方がありますが、一般的には「年間所得が購買力平価(PPP)ベースで3,000米ドル未満の層」とするケースが多いようです。

BOPビジネスとは

従来の概念では、低所得者層は購買力がなく、ブランド志向もないといったイメージかもしれません。しかし、WRI(世界資源研究所)とIFC(国際金融公社)の報告書「The Next 4 Billion」によると、BOP層は世界の人口78億人の半数を超える40億人であり、この層を「次なる40億人」と称しています。この40億人の人々に製品やサービスを提供することをBOPビジネスと呼び、新たな市場の開拓と、世界中に存在する格差や貧困問題を解決するビジネスとして注目されています。

出典:国連人口基金『世界人口白書2021』
出典:世界資源研究所および国際金融公社『The Next 4 Billion(次なる40億人)』

BOPペナルティとは

BOPペナルティとは、貧困層であるために受けてしまうペナルティ=不利益のこと。低所得者層ほど生活コストが高くなることを表しています。BOPペナルティには以下のようなものがあります。

交通コストがかかる:買い物や公的サービスを受けるために徒歩で何時間も歩くか、乗り合いのタクシーなどを使う必要があり、移動に経済的・時間的なコストがかかる
商品の選択肢が少ない:近隣に商店があったとしても、購入できる商品は限られた選択肢の中から選ばなければならない。扱う品数が少ないため物流コストがかかり、食料品や生活用品の価格も高くなる。
情報にアクセスができない:都市部からの情報が入りにくく、市場の適正価格がわからない。例えば適正価格を知らないため、収獲した農作物をブローカーに安く買いたたかれてしまう等がある。他にも教育や医療の正確な情報が得られない等、先進国と比較して情報格差がある。

BOPペナルティの排除こそ、BOPビジネスに求められる最も重要な視点です。そうすることでBOP層の年間所得が向上し、大きな市場機会の創出が可能になります。

BOPビジネスがもたらす意味と未来

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SDGsが広く一般的になってきた現在、社会的にみたビジネスの長期性と継続性はとても重要なポイントです。BOPビジネスを成功に導き、BOP層の未来を明るく照らす光となるために必要なことは何かを理解しましょう。

サステナビリティに貢献するBOPビジネス

すでに述べているように、BOPビジネスはBOPペナルティを取り除くことを念頭においたビジネスですが、ビジネスを進めるために欠かせないポイントが「サステナブル」な観点です。

低所得者層に向けたビジネスは古くからありましたが、ビジネスを行う側の一方的な押し売り、搾取といった側面がありました。現在求められる低所得者層向けの事業、BOPビジネスには長期的な成長を促す視点が重視されます。ビジネスを行う側の成長はもちろんですが、現地の雇用を創出し、経済的な成長を促す視点が求められているのです。

例えば、ヤクルトグループの海外展開は好例といえます。宅配販売によるヤクルトレディシステムと呼ばれるマーケティング手法は日本国内でも有名です。同社では海外戦略の中で、ヤクルトという商品を販売するだけでなく、販売スタッフを現地で起用する形で事業を展開しています。出来高に応じたインセンティブが支払われるこのシステムを活用し、地元の女性を個人事業主として販売を一任することで、現地の人々が自らの力で経済的に成功することを可能にしました。ヤクルトグループは地元に密着した現場志向のビジネスを展開し、営業利益の半分以上が海外事業となるほどに。

出典:ヤクルト新卒採用情報『国際事業』
出典:ヤクルト『セグメント情報』

BOPはネクストボリュームゾーン

BOP層の一人ひとりの所得額は決して大きくありません。しかし、BOP層は世界人口の半分以上を占めるため、潜在的な市場規模は5兆ドルともいわれています。途上国の人口は2050年までは全世界人口の82%を占めるとも予測されており、BOP層の規模はさらに拡大するでしょう。

「The Next 4 Billion(次なる40億人)」でも示されているように、BOP層は将来的な中間所得層(ネクストボリュームゾーン)ともいわれており、企業はいち早くターゲットとすることで市場の先駆者となり、大きな市場機会の創出が可能となります。BOP市場に意欲的な企業が、将来のボリュームゾーンに対して販売拠点を確保したり、ブランドを確立したりなどの動きも加速。BOPビジネスに注目が集まっている理由の一つとなっています。

出典:世界資源研究所および国際金融公社『The Next 4 Billion(次なる40億人)』

BOPビジネスが企業にもたらすメリット

BOPビジネスを展開することで企業が得られるメリットは、大きく分けて2つあります。

1つ目は、BOPビジネス自体が社会課題の解決に繋がるという点です。BOPペナルティを受けている地域へBOPビジネスを展開することは、不利益を取り除くことに繋がります。BOP層の生活の質が向上し、より良い社会作りの手助けになるのです。

2つ目は、BOPビジネスを展開する企業へのメリットです。メリットは以下のようなものが考えられます。

ESG経営との連動:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を持ったESG経営は、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の広がりとともに注目される経営手法です。ESG経営のひとつの視点としても、BOPビジネスは大きな可能性を秘めています。ESGについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

拡大するイノベーション:BOP市場に向けたサービスや商品を展開すると、これまでにはなかった開発や販売手法が求められるようになります。BOP市場への取り組みのなかで、グローバルにも通用するような革新的なサービスや商品が生まれる可能性が高くなり、新たなビジネスを生むことにも繋がります。

ブルーオーシャン戦略による利益:BOP市場は
競争率が低く、未開拓であることが少なくありません。そのため企業にとって、このブルーオーシャンで先駆的にビジネスを展開することは大きな魅力となるでしょう。

企業イメージ向上:BOPビジネスに参入し、現地の社会課題解決にも寄与することは、社会的価値を創造する企業としての認知につながるでしょう。。BOP層に限らず、グローバルな規模で企業イメージが向上し、、ブランドの確立になる可能性も。


BOPビジネスを展開するうえでの課題

日本国内の市場は少子高齢化の影響で限界が見えています。そんな今、企業にとって海外進出、特にBOPビジネスを展開することは魅力的に映るでしょう。しかし「安い価格なら売れるだろう」という単純な考えでは、BOP市場から受け入れて貰うことはできません。

何よりも大切なことは現地の人々に寄り添い、本当に必要とされているものを提供することです。現地の価値観やニーズをしっかりと把握したうえで企業がBOPビジネスを推進するためには人材の確保がカギとなってきます。海外で事業展開ができる人材を育成することが、BOPビジネスを進めるための最も重要な課題といっても過言ではありません。

BOPビジネスを生み出せる人材の育成とは

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BOPビジネス成功のカギである人材育成。その人材を育てるために必要となってくる観点を確認してみましょう。BOPビジネスを成功へと導くポイントは5つありますが、この5つを遂行できる人材こそが、グローバル人材・自律型人材といえるでしょう。

BOPビジネスを成功に導く5つのポイント

BOPビジネスを成功に導くためには5つのポイントが考えられます。

その1:明確なビジョンを持つ
その2:強い使命感
BOP層が持つ社会課題を解決し、生活を豊かにするためには、軽い気持ちでは達成することは難しいでしょう。自らビジョンを描き、、それを成し遂げるという強い使命感が重要となってきます。

その3:優れた商品やサービスの開発
その4:サステナブルな視点
その5:現場志向
サステナブルな視点と「現場志向」をもち、商品やサービスの開発と展開ができる要素も、BOPビジネスを進める人材には必要といえるでしょう。

この5つの価値観を進めるためには、人材育成がカギを握っているともいえます。5つのポイントを押さえたうえで、グローバルな価値観を持ち、指示待ちではなく自ら判断してビジネスを推進できる人材が欠かせません。

グローバル人材

BOPビジネスは現地の人々に密着した活動が欠かせません。そのためにはグローバル人材が不可欠。グローバル人材と聞くと英語など語学力がある人材を想像しがちですが、それだけでなくコミュニケーション能力、柔軟性をもった対応力、チャレンジ精神、価値観の多様性への理解なども重要となります。

グローバル人材について、詳しくは以下の記事もご覧ください。

自律型人材

現地に赴き、ビジネスを展開するには、指示を待つような人材では務まりません。いわゆる「自律型」の人材がBOPビジネスには相応しいといえます。自律型人材とは自身の揺るぎない「軸」に従って自発的に行動し、オーナーシップや独創性を兼ね備えた人材です。

自律型人材については詳しくは以下の記事もご覧ください。

BOPの意味を理解し人事が貢献できることを考えよう

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企業がBOPビジネスを展開することは、社会課題の解決に寄与すると同時に企業の長期的かつ持続的な発展につながります。BOPビジネスを展開するには、それが可能なグローバル人材や自律型人材の育成も重要です。人材領域の担当者はそのような人材を評価する指標作成や、人材育成プログラムの開発をなどを行うことで、企業のBOPビジネスの前進に寄与できるでしょう。

NPO法人クロスフィールズは、社会起点を備えたグローバル人材や自律型人材の育成に繋がるさまざまな事業を行っています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。