三井物産の社員・約4000名が「共感VR」を体験―サステナビリティへの理解は深まったのか?
三井物産(株)では、社員向けにサステナビリティに対する意識浸透プログラムを展開しています。その一環として、クロスフィールズの共感VRを活用したプログラムを実施。原料のサプライチェーンをテーマとした内容で、同社の単体社員を中⼼に国内外で4,000⼈以上が受講しました。(共感VRとはVR/360度映像などを用いて社会課題の現場を疑似体験する機会を提供し、社会課題の自分事化を促進するプログラムです)
受講者から「現地の映像を見ながらチームメンバーと感想を共有することで、より課題への理解が深まった」「サステナビリティは全社的に意識すべき課題だと気づいた」などのコメントが届いたこのプログラム。
今回はプログラム制作に関わった同社・サステナビリティ経営推進部の筒井さんと、実際に研修を受講した人事総務部の清水さんから、導入の背景や実施した感想などを伺いました。
自社サプライチェーンをテーマに社会課題の自分事化を目指す
――まず、サステナビリティ経営推進部での取り組みと今回のプログラム実施の背景を教えてください
筒井:弊社では、私が所属するサステナビリティ経営推進部で全世界的に進む気候変動をはじめとした様々なサステナビリティに関連するリスク対応も含めた方針策定や体制構築を進めています。
現状認識として、全社レベルの方針策定・体制構築は一定の進展がある一方、事業活動の現場での具体的な取り組みを加速させていくことを課題と把握していました。
これは“「挑戦と創造」の精神に基づき、事業を通じてさまざまな社会課題を解決する“という弊社が目指すべき姿 に通じるもので、当部は社員それぞれがサステナビリティ推進に取り組む後押しができるような施策を行っています。
一方で現場の社員は日々の業務で忙しく、立ち止まって十分に深くサステナビリティについて考える余裕がない、という課題感をもっていたんです。これまでも気候変動をテーマにしたワークショップなどを複数回実施してきましたが、任意参加型だったので、元々サステナビリティに関心の高い層に参加者が偏りがちでした。
サステナビリティに対する関心がそこまで高くない層にも届く施策にしたい。そしてより多くの社員が社会課題を自分事として捉え、事業を通じて課題の解決に取り組んでほしい……。
そんな想いから、今回のプログラムは単体に所属する社員は必修とし、海外店社員も受講できるものにしたんです。テーマも社員にとって身近な自社のサプライチェーンに設定しました。
プログラムは各本部で4~6人程度でグループ分けを行い、社会課題の現場に関する動画を視聴し気づいたことをメンバーと共有するという内容ですが、動画のなかでプログラムの進め方をファシリテーションしているので、気軽に導入できることが特徴です。所要時間はディスカッションの時間含め1時間とし、忙しくても受講してもらいやすいような内容を作っていきました。
清水:私の部門で実施した際も、ファシリテーションの必要がないから非常に取り組みやすかったですね。通常だと「誰が進行するのか?」という最初のハードルがあるのですが、今回はそれがなかったのですんなり受講できました。
筒井:このプログラムを社内で展開するにあたっては、社内イントラに特設webサイトを作成して解説記事を発信したり、オフィスに特設ブースを設けたりして、より多くの社員が関心を持ってくれるような仕掛けを作っていきました。
受講者の声で実感した「サステナビリティに対する意識の変化」
――実際にプログラムを経験されていかがでしたか?
清水:「360度映像で海外の社会課題の現場を体感する」と聞いたときは想像がつかなかったのですが、実際にプログラムを受講すると、その没入感に驚きました。また自分は人事総務部なので、サプライチェーンについて事業本部ほどメンバーの認知度合いは高くありませんでしたが、コーポレート部門にとっても今回のプログラムは自分事として捉えやすい内容だと感じました。
一方で私は青年海外協力隊の経験者ということもあり、社会課題への関心は高いほう。今では時代の変化に伴って変わってきましたが、以前は同僚にサステナビリティやフェアトレードの話を出してもなかなか伝わらなかったんです。この経験もあってか、正直「どれほど多くの社員に響くだろうか……?」という気持ちを持っていました。実際、反応はどうでしたか?
筒井:私も「それぞれ異なるビジネスや業務を行っている社員が、プログラムを通し気づいたサステナビリティに関する課題を自分事にしてくれるだろうか?」という不安はありました。
でも事後アンケートで「サステナビリティは関連部署だけが取り組むもののではなく、全社的に意識すべき課題だと気づいた」などの声や「自部署でサステナビリティの取り組みを加速させるために、サステナビリティ経営推進部にもっと相談したい」というメッセージを寄せてくれた人もいて、ちゃんと届いているんだという実感が生まれました。
加えてアンケートで印象的だったのが、「同じプログラムを受講しても、社員それぞれで注目する観点が異なっていた。異なる観点を知ることでさらに自分の理解が広がった」というコメントです。複数人で同じ映像を見て、気づきを共有することでさらに学びが深まるのだと感じました。
清水:プログラムを体験して「これはすごい」と思ったと同時に、制作サイドの想いというか、「これを伝えたい」という情熱がのっていることも感じましたね。
筒井:そう言っていただけるのは嬉しいです。実際、私はグアテマラでの撮影にも同行したのですが、現地で生産者やサプライヤーなどのステークホルダーが課題に向き合う姿勢や、彼らの想いを知るなかで、弊社の原料調達の取り組みを肌で実感できたんです。
自分の気づきや感じたことを、社員にも経験してほしい。そのために、ファシリテーション部分もセリフの細部までこだわりましたし、英語版でも伝わりやすい単語を選ぶのに何度も頭をひねりました。
仕事を通じてサステナビリティを実現していきたい
――プログラムを経て、ご自身や部署の方々に変化はありましたか?
清水:弊社は総合商社ということもあり、元々「世の中の役に立ちたい、社会課題を解決したい」という想いで入社する社員が多くいます。しかし、どうしても日々の業務の忙しさで初心を忘れてしまいがち。今回のプログラムはこうした初心を思い出すきっかけになったり、目の前の業務でどのように社会課題解決ができるかという会話をしたりする機会になったと感じています。
人事総務部で働く私としては、「人のサステナビリティ」を常に考えています。いかに社員が持続的に活き活きと活躍できるか、次世代の人に引き継いでいけるかということです。これは日本だけでなく、海外の社員やサプライチェーン上のステークホルダーに対しても同じ。弊社事業に関わるすべての人のサステナビリティを実現していきたいです。
人材育成の観点では、社会課題に対して真正面から向き合いながらビジネスで解決策を提示できる社員をもっと増やしていきたいですね。すでに、ある程度は取り組めている感覚はありますが、これからも世の中の社会課題はどんどん出てくるので、どんなに取り組んでも「100%解決しきれた」とはならないと思っています。そのため、新たに生まれてくる社会課題に対してアプローチを考え続け、行動できる人材を生み出し続け、組織・会社全体としても成長し、社会に価値提供をしていきたいです。
筒井:当部としては、これからも国内外の支社・支店を含め、より多くの社員にサステナビリティについて考える機会を提供していきたいです。
実はこのプログラムをご提案頂いた時、「動画を通して社員の意識に強く働きかけることができるのだろうか」という不安がありました。でもクロスフィールズのみなさんの「一緒にやりましょう!」という熱に押されて実施してみた結果、最終的には日本だけでなく海外店からも「本店の取り組みや目指す方向性が伝わった」などの好反応が届いています。
今後もこうした施策を通じてより多くの社員にサステナビリティを考えるきっかけを提供していきたいです。
編集後記
クロスフィールズとしても、ここまで大規模にプログラムを展開したのは初の試みでした。インタビューを通じて、今回のプログラムには制作に関わった方々の「多くの人に届けたい」という気持ちがつまっていると実感しました。そして「筒井さんや清水さんのようにサステナビリティの課題と真摯に向き合うビジネスパーソンがいるから、私たちももっと頑張らなきゃ」と、私自身も気が引き締まりました。今後も企業やNPOの垣根を超え、一緒に社会課題の解決に取り組んでいきたいです。(広報・松本)
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今回ご紹介した「共感VRプログラム」は、現在企業向けに展開しております。ご関心のある方はこちらのフォームまでお問い合わせください。