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サステナビリティ経営とは? 実践に向けた手順と人事に必要な意識

近年、SDGsの認知が一般的になったこともあり、さまざまなメディアを通じて「サステナビリティ」という単語が広く知られてきました。サステナビリティを用いた経営とはどのようなものでしょうか。

サステナビリティ経営について詳しく紹介し、サステナビリティ経営を実践するための手順についても解説します。また人材領域においてサステナビリティ経営に貢献するために必要なことも確認しましょう。

社会課題を事業に直結させるサステナビリティ経営

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2015年は国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が採択され、パリで開催された温室効果ガス削減の国際的な取り決めを定める国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)でCOP21も採択された、地球環境にとって大きな節目の年です。

これ以降、企業が「サステナビリティ経営」に取り組むことを本格的に求められるようになりました。サステナビリティ経営とはなにか、企業に必要とされるのはどのような指針なのかを紐解いていきましょう。

サステナビリティ経営とは

サステナビリティ経営とは、環境・社会・経済の3つの観点によって、事業のサステナビリティ(持続可能性)向上を図る経営のことです。

これまでも環境や社会に対する貢献活動として、志の高い企業はCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)に積極的に取り組んできました。CSRの本来の目的は、企業の経済活動によって社会に貢献すること。しかし、これまで本業とは別の価値観で事業利益をトレードオフし、社会に還元するような側面を持っていました。

今、注目を集める「サステナビリティ経営」とは、環境・社会を考慮しながらも、自社の経済発展を相反せずに両立させるもの。環境や社会への配慮が、経営や事業から切り離された活動ではなく、企業が生き残るための「長期志向」と「社会価値」の観点を事業に組み入れるを指します。持続可能な成長を実現することがサステナビリティ経営の重要なポイントです。

サステナビリティ経営が求められる背景

2015年に国連のフレームワークの一つ、PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)に署名した世界最大規模の機関投資家であるGPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)がESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)指数を選定し、優れた企業を対象として年間1兆円の投資を行うことを発表しました。

ESGはPRIが投資において掲げている基本的な指針です。GPIFによるこの発表は、経営にESGの枠組みを導入する「サステナビリティ経営」へと企業が舵を切る動きを活性化させました。

投資家がESGの視点で投資先を選ぶだけではなく、さまざまなステークホルダーからの社会的プレッシャーが企業のサステナビリティ経営を後押ししています。

例えば、
・消費者:環境に配慮した商品を優先的に選択
・顧客:人権・労働・環境などに配慮していることが取引条件
・求職者:社会に貢献している企業なのかが企業選びのポイント
・従業員:働きがいのある企業なのか、社会的意義を持っている企業なのか
・取引先:品質基準を満たす原材料の安定確保のためにESG対応が必須
・地域社会:貧富の格差を生み出していないか、企業の不祥事に厳しい
このように、企業を取り巻くステークホルダーの価値観には大きな変化が起こっており、それによりサステナビリティ経営が求められている背景にあるといえます。

引用:年金積立金管理運用独立行政法人『ESG指数を選定しました』


サステナビリティ経営のメリット

サステナビリティ経営を行うメリットは大きく3つが考えられます。

一つ目が「競争戦略」としてのサステナビリティ経営です。環境・社会に配慮された製品やサービスは、商品をプレミアム化し、顧客のロイヤルカスタマー化に貢献します。共感を生み出し顧客基盤も拡大させます。また、社会的大義に基づく競合との共同調達や環境配慮による販管費の抑制につながることからコスト削減も期待されます。

二つ目に、サステナビリティ経営は「リスクヘッジ」に寄与します。気候変動による原料調達ができないリスク、企業へ不信感を持たれるリスク、テクノロジーを用いた新たな事業機会を得ることができないリスク、この3つのリスクを回避することが可能になります。

三つ目はサステナビリティ経営による「ロイヤリティ・エンゲージメント」への貢献です。サステナビリティ経営を実施することで、志の高い人材を確保し、人材のリテンションに効果的なインパクトを与えられます。長期的な目線で人材コストの抑制につながるのです。

サステナビリティ経営を実現するための手順

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サステナビリティ経営を実現するための手順を紹介します。手順は大きく3つのステップに分かれています。重要課題の特定、長期ビジョンの策定、目標達成のための実施と社員への理解促進です。

手順1:自社と社会の関わりにおける重要課題を特定

サステナビリティ経営の最初のステップは、重要課題(マテリアリティ)の特定です。これは環境・社会・経済の大きく3つの領域の課題の中から、社会やステークホルダーに対して大きなインパクトを与えつつ、自社の事業を持続可能にさせる課題を絞り込むことを指します。

気候変動の問題や多様性確保はあらゆる業界で対応できる課題ですが、例えば食品業界であれば人々の健康に寄与すること、インフラ業界なら地域社会の活性化促進、IT業界の場合は一次産業との連携による安定供給の仕組み作り(スマート農業・漁業など)等、マテリアリティは業種に依存することも少なくありません。

マテリアリティの特定は、サステナビリティ経営のメインテーマを確定し、この後に続く重要なステップになります。

手順2:長期ビジョンを策定し、将来像を描く

二つ目は将来にむけて長期ビジョンを策定することです。ビジョン達成の目標年は、SDGsがゴール達成として定める2030年と、カーボンニュートラルが2050年を目標に掲げられている動きを踏まえて、2030〜2050年に設定されることが多いです。

ここで設定した目標年において、特定したマテリアリティが自社や社会にどれほどのインパクトを与えるかシナリオを作成し、そのシナリオに沿って対応策を検討しますこれによって自社が「将来どうなりたいか」という、長期ビジョンを描きます。

この一連の計画策定は、SDGsの目標に掲げられているように多様性への配慮が欠かせません。ビジョンの策定には多くのメンバーと行うことが推奨されます。

手順3:PDCAを実践し、社員全員の理解を促進する

マテリアリティと目標年、長期ビジョンが策定できたら、実現するための具体的な目標を決め、実践に移ります。現状の延長線ではなく「将来どうなりたいか」から、バックキャスティングの思考をもってアクションプランや指標を作成します。

実践にはスタッフの理解が不可欠です。サステナビリティに関わる研修プログラムの実施は必須ともいえるでしょう。

人事領域でサステナビリティ経営に関与できること

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サステナビリティ経営を実現するためには、社内の統治システムやプロセスといった「オペレーション領域」に多様な変化が求められます。そのために人事担当者がどのように関与できるか、推進するために必要なことを確認しましょう。

サステナビリティ経営には3つの領域が重要

GPIFのESG投資に向けた姿勢が鮮明化し、ステークホルダーの意識変化によって、サステナビリティ経営に対する関心が高まりました。より一層、経営基盤を中長期的視点で捉えることが求められます。
情報開示、組織統制、意識改革の3つ領域で必要なことを確認しましょう。

その1:非財務領域の情報開示

サステナビリティ経営は、企業ビジョン、経営企画の中に非財務・社会価値の組み込みが求められます。そのため経営企画室と現場となる事業部門とのより密接な連携が不可欠。事業部門において人材を配置し、常にサステナビリティ経営における目標への達成度合いをチェックしなければなりません。

そのための人材確保・管理は人事部主導で進める必要があります。また、非財務領域の情報開示を広報担当部門と連携して積極的に行います。目標に向けた達成度の開示と共に人材領域に向けた理念やビジョンを広く浸透させる施策の実行も欠かせません。

その2:評価の仕組みにサステナビリティ要素を組み込む

二つ目の領域は組織統制領域です。サステナビリティ経営の意思決定や事業判断に基づき、人事評価において非財務・社会価値が相応に考慮される組織統制のあり方に進化が必要です。
人事評価や意思決定機関の整備においてサステナビリティの要素を組み込み、組織に浸透させることが求められます。

その3:ESGに配慮した意識改革を行う

最後がサプライチェーン領域。サステナビリティ経営には、資材・原材料の調達や基準において、品質や価格という条件だけではなくESGに配慮したサプライチェーン構築が求められます。

人権や環境に配慮したサプライチェーンの構築には、通常リスクヘッジの観点で考えられがちです。しかし自社内組織はもちろん、取引先、仕入れ先を含めた外部関係者にも取り組みを理解してもらい、サプライチェーン全体で付加価値向上に繋げる必要があります。
ESGに配慮するにはどのようなことを推進しなければならないのか、研修プログラムの実施は研修担当によって社内外に行う必要があります。

人事領域からサステナビリティ経営に積極的に関与しよう

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日本は売り手良し、買い手良し、世間良しのいわゆる「三方良し」という近江商人の心得があり、長期志向と高い志を経営理念に謳う風土を持っています。しかし、短期的な売上や利益の追求によって社会貢献は二の次とする経営が多くなり、理念と現実が乖離してきました。

サステナビリティ経営は本来、まさに「三方良し」の心得と相性がよく、近しい理念を持っています。サステナビリティ経営に人材領域が関わる事柄は多数あるため、今まで以上に経営に関与し、自社と社会の持続的な価値観における成長を促していきましょう。

NPO法人クロスフィールズは、企業がサステナビリティ経営に転換する、サステナビリティトランスフォーメーション(SX) 推進をサポートする事業を複数行っています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。