CROSS FIELDS
インドネシアのソーシャルリーダーと探る留職を超えた新たな協働の形
見出し画像

インドネシアのソーシャルリーダーと探る留職を超えた新たな協働の形

CROSS FIELDS

クロスフィールズは12カ国・170以上の団体とネットワークを持ち、さまざまな事業を展開してきました。今回、2022年2月のビジョン刷新を機に特別イベントを開催。長年にわたりパートナーとして協働してきた海外の団体よりリーダー2名を迎え、クロスフィールズ代表・小沼と新規事業リーダー西川が、新たな協働の形や持続的な社会課題解決のモデルなどについて議論を深めました。(本レポートは2022年4月実施した英語でのイベントを翻訳し、作成しています)

留職が社会課題の現場に生み出してきた変化とは 

西川:モデレーターを務めますクロスフィールズ・新規事業開発リーダーの西川紗祐未です。本日は留職で協働してきたインドネシアの団体より2名のリーダーをお迎えし、新ビジョンである「社会課題が解決され続ける世界」の実現に向けた協働のあり方や、これまで留職が社会課題の現場で生み出してきたインパクトなどを語っていきます。

西川紗祐未:国際協力機構(JICA)にて中東・北アフリカ地域におけるODA事業の形成と実施管理に携わる。2018年にクロスフィールズへ加入。プロジェクトマネジャーとして留職やフィールドスタディ事業等の企画運営を経て現在は新規事業開発リーダーを務める。

さっそくゲストをご紹介します。一人目はインドネシアで社会起業家の育成支援を行っているInstellar(インステラー)の創業者・Romy(ロミー)氏です。Romyはクロスフィールズの創業時より、事業に関する相談など様々な形で応援してくれている存在です。

Romy:インステラー共同設立者・CEOのRomyです。私たちはインドネシアで活動する社会起業家の事業支援を行っている団体です。具体的には、社会起業家たちが事業を通じて社会的インパクトを出しつつ、持続可能なビジネスモデルを確立していくことを支援しています。韓国・シンガポール・ヨーロッパの企業や国際機関と連携しながら、これまで250名以上のインドネシアの社会起業家を支援してきました。こうしたネットワークを活かして、これまでクロスフィールズに東南アジアのNGOや社会的企業を紹介したり、今後の事業について話したりしてきました。新しいビジョン・ミッションを受けて、これから一緒に何をできるのかとても楽しみです。

Romy Cahyadi氏:Instellar(インステーラー)共同創業者・CEO。
インドネシアで活動する社会起業家支援などに取り組んでいる。クロスフィールズ創業時より、受け入れ先団体の紹介や事業のアドバイザーとして深い関わりを持つ。

西川:二人目のゲストは、同じくインドネシアで活動するRachel House(レイチェルハウス)代表・Lynna(リンナ)氏です。彼女とは留職を通じて出会ましたが、留職だけでなくRomy同様にクロスフィールズの事業やさらなる協働に向けて相談させてもらっているパートナーでもあります。

Lynna:レイチェルハウス代表のLynnaです。私たちは2006年にインドネシアで活動を開始し、HIVやAIDSなどで苦しむ子どもたちに緩和ケアを提供してきました。現在は患者家族のケアや地域コミュニティの医療事業なども展開しています。「いかなる子どもも、苦痛を抱えながら生きたり、あるいは亡くなったりしてはならない」という信念を大切に活動しています。これまでに3名の留職者を受け入れています。

Lynna Chandra氏:インドネシアを拠点に活動するRachel House(レイチェルハウス)代表。
HIVやAIDSなどで苦しむ子どもたちへの緩和ケアや地域コミュニティの医療事業など展開。
2014年よりクロスフィールズと協働し、これまで3名の留職者受け入れている。

西川:ありがとうございます。ゲスト2名とクロスフィールズをつないだ「留職」ですが、まずはどのようなプログラムなのか、小沼さんから説明してもらえます。

小沼:クロスフィールズ代表の小沼です。留職は2011年の開始より、200名以上のビジネスパーソンが参加してきました。このプログラムは、「留職者」と呼ばれる参加者が派遣元の企業から新興国や国内のNPOや社会的企業に飛び込み、本業のスキルと経験を活かして社会課題の解決に挑むものです。

小沼大地:青年海外協力隊として中東シリアに赴任後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年にクロスフィールズを創業。

留職がアジアのソーシャルセクターに生み出してきた価値とは

小沼:留職は「社会課題の現場での原体験」を提供し、社会課題を自分事として向き合うリーダーを数多く生み出してきました。本日のゲストであるLynnaの団体にも留職者を派遣してきましたが、留職はレイチェルハウスにとってどんな変化やインパクトをもたらしましたか?

Lynna:私たちが最初に留職者を受け入れたのは8年前のことでした。私たちは留職者が派遣される前もボランティアを受け入れていましたが、彼らは1週間程度の滞在かつ医療従事者でした。そのため3ヶ月にわたり異なる業界の人を受け入れる、ということ自体が初めてだったんです。不安もありましたが、結果的には受け入れて本当によかったと感じています。

最初の留職者は3ヶ月間にわたり組織が管理するデータのデジタル化に取り組んでくれました。彼の活動をきっかけに、団体メンバーたちも主体的にデータに関する知識を得て、活用していくようになりました。自分たちでデータを活用したり、その方法を学んだりする機会が少なかったメンバーにとっ
て、本当に良い機会
になりました。

レイチェルハウスのメンバーと留職者(写真・右手前)

団体ではその後も2名の留職者を受け入れていますが、毎回多くの学びがあります。受け入れを通じた最も大きな学びは「異なる文化・ビジネスの経験を持つ相手と、プロジェクトの企画から実施まで行う」という経験を重ねられたことです。私たちの取り組む社会課題の解決には多様な人との協力が不可欠です。クロスフィールズは日本企業とのネットワークを駆使して、様々な人とレイチェルハウスを繋いできてくれました。

小沼:ありがとうございます。クロスフィールズの役割について、Romyはどう考えていますか?

Romy:クロスフィールズは「架け橋」のような存在だと思っていて、これまでも日本とアジアの国々、NGOとビジネスなど、異なる国やセクターで活動する人々を繋いできてくれました。留職が生み出すインパクトは「人と人との関係性」を築く点にあると思っています。留職は留職者と受け入れ先の団体メンバーが、日常の些細なコミュニケーションを通じて相手のことを理解し、そのうえで一緒に社会課題の解決に向けて奔走していきますよね。このプロセスこそが、留職者と受け入れ先の信頼関係を築いているのだと思います。

10年間で培ったアセットを新ビジョンの実現にどう活かすか

小沼:ここからは新しいビジョン・ミッションについて紹介させてもらいます。私たちは2022年2月に新ビジョン「社会課題が解決され続ける世界」と、その実現に向けた2つのミッションを掲げています。

ミッションの1つは「社会課題を自分事化する人を増やす」、もう1つが「課題の現場に資源をおくり、ともに解決策をつくる」です。
2つ目のミッションが生まれた背景として「留職を通じて派遣先団体の抱える課題を解決するだけに留まらず、その先にある社会課題の解決にもより主体的に取り組みたい」という組織全体としての強い意志があったのですが、「何をどうしていくか」という具体的な実現の方向性はまだまだ模索中です。

英語版のビジョン・ミッション

そこでまずは、いま持っているアセットを洗い出してみました。その結果、この10年間で築いてきたアセットは、主に以下の3つだとわかってきました。

①信頼に基づく国内外のネットワーク(Trust based network)
②セクターの異なる人々をつなぐ技術
(Ability to bridge people organization beyond the sector)
③原体験を生み出す力
(Experience on creating transformational experience)

まず、1つ目のアセット「信頼に基づく国内外のネットワーク」について。私たちは300を超える海外の団体、100を超える日本企業、そして1000人を超えるプログラム参加者とのネットワークを持っています。このネットワークは共感をベースにした関係性であり、大きなアセットです。

2つ目の「セクターの異なる人々をつなぐ技術」はクロスフィールズの核ともいえるのですが、これは「どの企業とNPOがつながると、活動の効果が最大化されるか」などのマッチングをする目利き力や、企業とNPOそれぞれの価値観や文脈を汲んで翻訳する力と言い換えられます。

そして3つ目の「原体験を生み出す力」とは、企業とNPOが協働する場の設計や、社会課題の解決に挑む人々へのコーチング等を通じて人がマインド変容を起こす機会を提供する技術を指します。

これらのアセットを活用することで、新しいビジョン・ミッションの実現に向けて進んでいけるのでは、と思っています。

クロスフィールズのアセットを可視化した図

Romy:たしかにこの3つはクロスフィールズのアセットですよね。ただ、これらのアセットを活用しながら「課題の現場に直接的な変化」をもたらすためには、新たな事業モデルも必要だと感じます。クロスフィールズは日本の企業にプログラムを提供することで、活動資金を得てきましたよね。この事業モデル自体は成功してきたと思いますが、一方で当然このモデルは企業への価値提供が必要不可欠です。

つまり、クロスフィールズがこれから「企業のリーダー育成」とは異なる軸で、直接的に社会課題の解決に取り組みたいのであれば、新たな収益源を見つけて挑戦していく必要があるかと思います。

小沼:僕も新たな事業モデルは必要だと強く感じています。今後は民間財団や行政からの補助金など、多様な資金元や調達の手法をさらに模索していく必要もあるなと。

一方でこれまで企業の方々と築いてきた信頼関係が私たちの強みであることに変わりありません。この先も企業とともに社会課題が解決され続ける世界をつくっていきたい。だからこそ、本気で社会課題解決を目指す企業とともに事業を生み出していきたい、とも思っています。

Lynna:社会課題の解決に繋がる事業を生み出すには、留職経験者(=アラムナイ)が肝なのではないでしょうか。私はクロスフィールズには第4のアセット「コーチングでの伴走とアラムナイのネットワーク」があると考えています。

留職ではプロジェクトマネージャーが留職者に伴走することで、彼らの活動は加速します。そして留職者=社会課題の現場での活動経験がある人材、と置き換えられますよね。クロスフィールズはアラムナイと私たちのような団体をつなぎ、課題解決につながるプロジェクトに伴走する、という新たな関わり方ができるのではないでしょうか。このような協働ができれば、企業とNPOがともに社会課題に取り組む事業が生まれると思います。

社会課題の現場に身を置くことがクロスフィールズ自身に必要

小沼:クロスフィールズの掲げた新ビジョンについて、改めてお二人の率直な意見を聞いてみたいです。

Lynna:私は特に「社会課題の解決に、より深く・直接的に取り組む」というコ・クリエイトの領域に期待しています。これまで留職者を受け入れるなか、「もっと長いスパンで留職者と協働できたら」と感じていました。

例えばある留職者は、レイチェルハウスの活動を伝える動画を作成してくれました。彼は現場で看護師の話をじっくり聞いたり、子どもたちと遊んだりして、プロモーション動画を作ってくれました。3ヶ月という限られた期間でしたが、完成した動画は私たちの活動や子どもの様子をありありと伝える、素晴らしいものでした。

留職者がレイチェルハウスと制作した動画の一部

一方でもっと長く彼と働けたら‥‥とも思ったのです。もし日本で動画を放送できたら、それがきっかけで新しいサポーターや賛同者が見つかったかもしれないし、そこから日本企業との協働が生まれたかもしれない。彼と長期間にわたって協働できたら、こんな可能性だってあったはずです。

私たちが取り組んでいることだけでなく、すべての社会課題は解決までに時間がかかります。社会課題を解決するには、各課題に必要なリソースや期間を理解することが大切ではないでしょうか。

その上でこれまでの活動で培ったアセットを活用し、社会課題の解決を実現していくことを期待しています。

西川:私としても、課題に深く・直接的に取り組みたいとずっと感じていました。留職での「伴走」という形に限らず、社会課題の現場に入って、現場の方々と同じ目線で課題に取り組みたい。レイチェルハウスの組織サポートだけではなく、「インドネシアにおける子どもの健康に関する課題」そのものを解決するパートナーになりたいんです。

Romy「課題に深く・直接的に取り組む」場合、特定の社会課題に絞ったアプローチがいいかもしれません。絞っていく際には、今まで誰もやってこなかった、あるいは取り組む人が少なかった社会課題を選ぶのがいいと思います。

では、どうやって特定の社会課題を見つけるか。「まずはクロスフィールズが現場に身をおく」ことが必要です。現場に行って、ほかのNPOや企業がまだ務めていない役割を見つけていくことが極めて重要です。

これを実現するには、リソースを集められるビジネスモデルが必要です。リソースは資金だけではなく、人材や知識、ネットワークなど・・。クロスフィールズは自分たちがこれから担う役割を見つけると同時に、その実現に必要なリソースを持続的に手に入れる仕組みを作ることが大切だと思います。

小沼:特定の社会課題を見つけるために、まずは自分たちが現場に入っていく必要があるということですね。大切だと思うと同時に、今のクロスフィールズに足りないことだとも感じています。

これからは社会課題の現場にさらに深く入り込んで、LynnaやRomyが支援している人々の声を聞き、一緒に何ができるか考えていきたい。そのための時間をもっと作っていきたいです。

今こそ行動するとき。リソースは後からついてくる

西川:最後に参加者の皆さんへ、お一人ずつメッセージをお願いします。

Romy:パンデミックで多くの人が命を落とし、私たちは人生の尊さを再認識しました。いまこそ、善い行動をとる時です。行動を恐れたり、疑ったりする時間はありません。

答えはわからなくてもまずは新しいことに挑戦し、イノベーションを起こす時です。ヘレン・ケラーの⾔葉にもあるように「⼈⽣とは冒険か、無かのどちらか」なのですから。

Lynna:組織運営において資金の問題はつきもので、私もRomyも悩んでいることです。一方でNGOや社会的企業の世界ではビジョン・ミッションが第⼀。実現したい世界に向けて、みんな活動をしています。

クロスフィールズはその名のごとく、国やセクターを「超える」存在だと思います。そんなクロスフィールズが、これからの社会において果たすべき役割は何か。どのような社会課題を、どういった方法で解決していくのか。それらを考え行動し、社会を前進させていけば、自ずとお金はついてくるはずです

小沼:お二人とのディスカッションを通じて、クロスフィールズを創業した10年前と同じような気持ちになっています。答えはわからなくても挑戦してみよう、という気持ちが一層強くなりました。

また、今日の場を通じ、改めて私たちに共感してくれるアジア各国のパートナー団体や、心強いチームメンバーの存在に気づきました。だからこそ「社会課題が解決され続ける世界」は実現できるし、そのために突き進んでいきたい。この実現に向けてみなさんと何ができるか考え、一緒に行動していきたいです。

西川:小沼さんも言っている通り、これからもパートナー団体の方々の声を聞き、一緒に社会課題の解決に取り組んでいきます。まずは身体を使って現場に入り込み、多くの方に「とりあえずクロスフィールズと話してみよう」と思っていただける存在になりたいです。

***
・Instellarについてはこちら(英語版サイト)
・Rachel houseについてはこちら(英語版サイト)

クロスフィールズの新ビジョン特設webサイトは以下よりご覧いただけます。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!
CROSS FIELDS
「社会課題が解決され続ける世界」をめざすNPO法人クロスフィールズの公式noteです。新しい取り組みの数々や、その裏にある一人ひとりの物語をお届けします。創業10周年の特設webページはこちら:https://crossfields.jp/10th/