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企業経営者がソーシャルセクターに経営参画。”ボード越境”が生んだ変化とは?

クロスフィールズは2023年より、役員レベルの人材交流をセクター間で加速させるボード越境イニシアティブを開始しています。2023年の活動としては、ビジネスセクターの役員層によるソーシャルセクターへの経営参画の動きの後押しを行いました。

本イニシアティブでは2023年5月に「ボードマッチイベント」を開催し、ビジネスセクターの経験や知識と、ソーシャルセクターが必要としているニーズのマッチングを実施。大企業やスタートアップの経営者15人と、受け入れ側としてNPOなど5団体が参加しました。

イベントを経て8名の経営トップがソーシャルセクターの団体に半年にわたって経営参画し、最終的には6名がアドバイザー等の形で正式に各団体への経営参画を決めるという結果となりました。

※イベント当日の様子はこちらの記事もあわせてご覧ください
※この取り組みは一般社団法人G1、NPO法人新公益連盟との連携のもと実施しています。

2023年のイニシアティブ全体スケジュール
ソーシャルセクターからのイベント参加団体

今回は受入団体の1つとしてボードマッチイベントに参加したイシノマキ・ファーム代表・高橋由佳さんより、この取り組みに参加した感想を伺いました。

同団体はボートマッチイベントを通じて独立系ベンチャーキャピタルのiSGS 代表・佐藤真希子さんと出会い、佐藤さんは半年にわたって経営戦略の壁打ちに携わりました。

その結果、様々な事業展開の推進など大きな成果に繋がったことを受け、佐藤さんを団体のアドバイザーとして正式に迎え入れることを決めています。

高橋由佳さん(写真・左):一般社団法人イシノマキ・ファーム代表。
教育・福祉分野の専門職を経て、2016年に「ソーシャルファーム」を理念とした
就農支援の一般社団法人イシノマキ・ファームを設立。
ボード越境にはソーシャルセクター側として参加

佐藤真希子さん(写真・右):株式会社iSGSインベストメントワークス代表パートナー。
サイバーエージェントを経て2016年に独立系ベンチャーキャピタルの
iSGSインベストメントワークスを設立。代表パートナーに就任。
ボード越境にはビジネスセクター側として参加

事業展開を考えていた時にボード越境へ

小沼:最初にボード越境に参加したきっかけを教えてください。

高橋:イシノマキ・ファームは、「ソーシャル・ファーム」の概念に基づき、農業を通して地域内外をつなぎ、社会的に弱い人もそうでない人も対等に過ごせる場所づくりを目指しています。

主に農業を通じた就労・居住支援と、ホップ栽培・ビール製造などを行っています。前者は公的資金をもとに実施してきましたが、今後は支援の幅を広げるために後者の事業収入からも資金を生み出したいと考えていました。

「社会性と経済性のバランスを取りながら事業を展開するために、ビジネスセクターの方からアドバイスがほしい」と感じていた頃、小沼さんからボードマッチイベントを案内してもらいました。

これまでも事業を通じて企業の方々と協働していましたが、組織のなかに入り込んでもらって経営相談をする経験はありませんでした。そのような依頼をする機会や接点がなかったのです。

小沼:ボードマッチイベントに参加されて、印象はどうでしたか?

高橋:イベントは各団体のブースに関心のあるビジネスセクター側の参加者が自由に座り協業の可能性を探る形式だったので、カジュアルで馴染みやすい雰囲気でした。対話を通じて共通の課題意識を持つ方や親和性の高い方を探す感覚でしたね。

イベント当日、参加者に団体の取り組みをプレゼンする高橋さん(写真・左)

iSGS 代表・佐藤さんとのマッチング、決め手は「共感」

小沼:iSGS佐藤さんとマッチングした理由を教えてください

高橋:一番はイベントでの対話を通じて「佐藤さんなら、共感をベースに協働ができそう」だと感じたことです。佐藤さんの専門分野である資金調達について学びたいという理由もありましたが、それ以上に団体の理念に共感してもらえた点が大きかったですね。

これまで企業の方々にソーシャルファームについて話すと、障がい者雇用に結びつける方が多かったのですが、佐藤さんは「障がいの有無に関わらず、就労が困難なすべての人の可能性を拓きたい」という私の目指していることに共感いただけました。

また、佐藤さんが「東日本大震災に対して何かしたい、という気持ちがずっとあった一方で、行動できなかった後ろめたさを感じていた。今回の機会で何かしたい」という強い想いを持ってらっしゃった点も、初期の段階で意気投合できたポイントだったかもしれません。

半年間の伴走が組織の成長につながる

小沼:マッチング後、佐藤さんはどのように団体と関わっていったのでしょうか?

高橋:マッチングが成立した後は、半年間のトライアル期間でアドバイザーをしていただくことになり、月1回の経営会議で相談に乗ってもらいました。

具体的には事業拡大に向けた資金調達の戦略を一緒に整理してもらったり、私が悩んでいる時に「由佳さんはどうしたいのか?」と考えを引き出しながら意思決定の後押しをしてくれたり。スポット的に作業を依頼するのではなく、組織の成長に伴走してもらった感覚です。佐藤さんは石巻に訪問してくれたこともあり、今ではプライベートの話もするくらい打ち解けています。笑

創業以来、ずっと「とにかく前に進まないと」と行動していました。でも佐藤さんとの協働によって一度立ち止まり、長期的な目線で組織の将来を考える機会になりました。

佐藤さん(写真・左から二番目)は23年8月にイシノマキ・ファームを訪問

継続的なアドバイザリーボードへの参画が決定

小沼:佐藤さんとの協働が成功した理由は何だったのでしょうか?

高橋:それぞれの役割が固定化していなかったことがあったと思います。きっちり役割を決めていなかったからこそ、逆に柔軟に進められたのかな?と。佐藤さんが「自分を適材適所で使ってほしい」と言ってくださったので、相談しやすかったです。

ボード越境イニシアティブが終了した今でも佐藤さんとの毎月の壁打ちは継続しており、今後は資金調達など佐藤さんの専門領域でも相談できればと思っています。

そして、実はこのたび社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)として株式会社を設立する運びとなりました。佐藤さんには正式にアドバイザリーボードとして継続的にサポートしていただくことになり、とても心強い気持ちです。

株式会社の実現は佐藤さんが背中を押してくれたこともあるので大変感謝していますし、これからも就労困難者の雇用創出を通じた社会課題解決に努めていきたいと思っています。

小沼:最後に、ボード越境イニシアティブへのコメントをお願いします。

高橋:まずは「本当に参加してよかった!」と思っています。
イベント参加時は団体の転換期で組織の方向性が揺れ動いていたのですが、ボード越境の取り組みを経て組織が新たなフェーズに入れたと感じています。取り組みへの参加も負担なくできましたし、本当にいい機会になりました。ソーシャルセクターとビジネスセクターがこのような形で結びつく機会はそう多くないと思うので、ぜひほかの団体にも薦めたいです。

インタビュー後記

企業とNPOとの人材交流はこれまでも様々な形で行われてきましたが、経営層レベルの人材がセクター間で行き来する仕組みは存在していませんでした。今回は日本で初めてそうした出会いの場を意図的につくってみたわけですが、想像以上に多くの経営者の方がソーシャルセクターの団体に経営参画するという結果につながり、嬉しい驚きでした。

実際に高橋さんの話を伺ってみて、こうした形で企業経営者の方とNPO経営者が人間同士でつながることの意義は、ビジネスセクターにとってもソーシャルセクターにとっても、極めて大きいことを改めて実感しました。クロスフィールズとしては、こうした取り組みをさらに推進していくことで、セクター間の協働をさらに加速していきたいと考えています。(クロスフィールズ代表・小沼)

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ボードマッチイベントは2024年夏頃に第二回を開催予定です。ご関心のある方はクロスフィールズ広報チーム(pr@crossfields.jp)までお知らせください。

本取り組みはBUSINESS INSIDERでも取り上げていただきました。