ESGランキングTOP10企業とは?取り組みや評価ポイントもご紹介!
環境、社会、企業統治(ガバナンス)の観点で行うESG投資に対応するための「ESG経営」を取り入れる企業が増加しています。企業が環境や社会に配慮することは以前からありましたが、ESGを自社の成長戦略として取り入れている点に大きな違いがあります。昨今、企業が経営戦略の中にESGを取り入れている背景と、参考となる導入事例をランキング形式で紹介します。
ESGが投資において重要な時代
ESGという言葉をビジネスシーンで目にする機会が増えてきました。ESGの意味やESGが生まれた理由、そして広がりを見せている背景について確認しましょう。
■ESGとは
ESGは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス=社会統治)」という3つの言葉の頭文字。環境や人権などへの対応が世界的に急務となっていることを受け、2006年に国連が機関投資家にPRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)を提唱しました。ESGはPRIを実現するための基準であり、ESGを事業に取り入れている企業に対して機関投資家が積極的な投資を促すための観点です。企業がESGに配慮した経営を行うことは、企業成長や経営基盤の強化につながると考え、ESG経営を重視するようになりました。
企業が具体的にESGを事業に取り組むには以下のような例が考えられます。
■ESGが注目されてきた背景
日本でESGに最初に注目が集まったのは、2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のPRI署名でした。PRIへの署名は広がっており2021年8月時点で世界4,419機関、日本では98機関まで拡大(2021年8月13日現在)しています。
署名機関の資産残高は総額100兆ドル(約1京1000兆円)超と世界の株式市場の時価総額に匹敵する規模を有するまでに成長しています。PRIへの署名は今後さらなる拡大が見込まれ、企業がESG経営を無視できなくなってきたことが注目を集める背景となっています。
ESGランキングTOP10を紹介
投資先として魅力的な企業はどのような手法でESGを推進しているのでしょうか。東洋経済新報社は同社が所有するCSR(企業の社会的責任)データベースの中から、環境、社会性、企業統治、人材活用の4つの分野で企業評価を行い、ランキングを発表しています。ランキングされる企業がESGに向けてどのような取り組みをしているのか確認しましょう。
■ESGランキングの概要
2021年10月に発表された6回目となるESG企業ランキングは、ROE(自己資本利益率)5%で足きりしています。株主にとって収益性の指標であるROEは「株主資本利益率」ともいわれ、「その株に投資してどれだけ利益を効率良く得られるか」を表しています。企業の規模に左右されないことも特徴のひとつ。ESG企業ランキングのTOP10の企業はどのようにESGに取り組んでいるのか、各社の事例を紹介していきます。
出典:東洋経済オンライン『最新「ESGに優れた企業ランキング」TOP200社』
■1位:SOMPOホールディングス株式会社
一位を獲得したSOMPOホールディングスは環境負荷の削減やSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)への積極的な取り組みが評価されています。同社は環境リスクを含めて様々なリスクを把握し、評価を実施。この実行のため取締役会でリスクの状況や対策を確認する体制も整えています。
●取り組み事例
・SAVE JAPANプロジェクトを通じて「いきものが住みやすい環境づくり」を進めている
・グループ全体で温室効果ガス排出量削減へ。2030年までに60%削減(2017年度比)の目標に向け、電力の再生可能エネルギーへの切り替えなどの対策を推進。
・2020年4月から社員が「働きたい会社」を目指した人事戦略を開始。能力開発支援やグローバルな人材の育成。
出典:SOMPOホールディングス『サステナビリティ』
■2位:オムロン株式会社
オムロンでは重要課題(マテリアリティ)を事業ドメイン別に策定。解決すべき社会課題の抽出と、中期経営計画VG2.0を進める上での事業基盤強化という、二軸でサステナビリティ課題解決を目標として掲げています。
●事業を通じて解決する社会的な課題
・ファクトリーオートメーション:労働力不足、多様化するモノづくりへの対応
・ヘルスケア:脳・心血管疾患対策、呼吸器疾患対策
・ソーシャルソリューション:より安心・安全・快適・クリーンに生活できるスマート社会の実現
●事業ドメインごとの取り組む課題
・人財マネジメント:人財アトラクションと育成、ダイバーシティ&インクルージョン、従業員の健康、労働安全衛生、人権の尊重と労働慣行
・ものづくり・環境:製品安全・品質、サプライチェーンマネジメント、温室効果ガス排出量の削減、化学物質の適正な管理と削減
・リスクマネジメント:誠実で公正な事業活動、情報セキュリティ・個人情報保護
出典:オムロン『サステナビリティ課題と目標』
■3位:J.フロント リテイリング株式会社
百貨店事業などを行うJ.フロント リテイリングは、中期経営計画においてサステナビリティ経営の考え方やグループのビジョンとしての「Well-Being Life(ウェルビーイング ライフ=心身ともに豊かなくらし)」を掲げています。マテリアリティの充実と拡大も行っており、7つの項目を策定しています。
●7つのマテリアリティ
・脱炭素社会の実現:脱炭素社会をリードし次世代へつなぐ地球環境の創造
・お客様の健康・安全・安心なくらしの実現:未来に向けたお客様の心と身体を満たすWell-Beingなくらしの実現/未来を見据えた安全・安心でレジリエントな店づくりの実現
・ダイバーシティ&インクルージョンの推進:全ての人々がより互いの多様性を認め個性を柔軟に発揮できるダイバーシティに富んだ社会の実現
・ワーク・ライフ・インテグレーションの実現:多様性と柔軟性を実現する未来に向けた新しい働き方による従業員とその家族のWell- Beingの実現
・地域社会との共生:地域の皆様とともに店舗を基点とした人々が集う豊かな未来に向けた街づくりの実現
・サプライチェーン全体のマネジメント:お取引先様とともに創造するサステナブルなサプライチェーンの実現/お取引先様とともに創造するサプライチェーン全体での脱炭素化の実現/お取引先様とともにサプライチェーンで働く人々の人権と健康を守るWell-Beingの実現
・サーキュラー・エコノミーの推進:サーキュラー・エコノミーの推進による未来に向けたサステナブルな地球環境と企業成長の実現
出典:J.フロント リテイリング『7つのマテリアリティ』
■4位:富士フイルムホールディングス株式会社
富士フイルムホールディングスは2030年に実現する企業の姿として、2017年にCSR計画「Sustainable Value Plan 2030(SVP2030)」を策定しました。
ここでは「事業を通じた社会課題の解決」と「事業プロセスにおける環境・社会への配慮」を推進するために4つの重点分野を定めています。中長期計画「VISION2023」では「ヘルスケア・高機能材料の成長加速」と「持続的な成長を可能とする更に強靭な事業基盤の構築」を軸に重要分野の4つに落とし込んで取り組んでいます。
●4つの重点施策
・事業ポートフォリオマネジメントの強化:事業フェーズに応じた適切な戦略実行/グループ全体の経営資源の最適配分
・キャッシュフローマネジメント強化:資本効率を意識した事業運営の徹底/ROE/ROIC/CCC向上
・更なる成長に向けた市場参入:AI/IT技術、バイオ技術、光制御材料技術などの強みを発揮し得る技術領域、市場に投資を継続
・M&Aにより強化した事業の統合効果創出:富士フイルムヘルスケア、富士フイルムビジネスイノベーション
出典:富士フイルムホールディングス『CSRの考え方と各種方針』
■5位:KDDI株式会社
KDDIでは、社会と企業の持続的な成長を促すために、6つのマテリアリティを中心とした「中期経営計画((2019-21年度)」を策定。連動したサステナビリティ活動を全事業部門で推進しています。
KDDIのSDGs「KDDI Sustainable Action」では、通信事業者として貢献できる事業領域の観点から社会課題領域を特定し、経済的・社会的・環境的な価値に寄与する目標を設定しています。
●KDDIの6つのマテリアリティ(重要課題)
・安全で強靭な情報通信社会の構築:異常気象へのレジリエントな対応、リスクマネジメント
・情報セキュリティの確保とプライバシーの保護:情報資産の活用とセキュリティの強化:データプライバシー、ICTを通じた心豊かな暮らしの実現
・情報通信インフラ提供による経済発展への貢献:ICTによる教育、医療など公共サービスへのアクセス向上、雇用創出とキャパシティビルディングの推進、イノベーションマネジメント
・多様な人財の育成と働きがいのある労働環境の実現:ダイバーシティ&インクルージョンの推進、人財育成とキャリア開発、従業員満足の追求、健康経営への取組み
・人権尊重と公正な事業活動の推進:持続可能な調達の推進、労働者権利の尊重、汚職・賄賂の防止、公正かつ積極的なコミュニケーションの推進
・エネルギー効率の向上と資源循環の達成:エネルギー効率の改善とクリーンエネルギーの活用、ゼロエミッションと3R、ICTによる社会の環境負荷低減
出典:KDDI『マテリアリティ (重要課題)』
■6位:東京海上ホールディングス株式会社
SDGsと密接に関連するさまざまな商品・サービスを提供している東京海上ホールディングスは、持続可能な社会の実現に向け、8つの重点領域においてSDGsの17の目標に対応する取り組みを行っています。
これによりグローバルESG評価機関から高い評価を受け、FTSE4 Good Index、FTSE Blossom Japan Index、2020年度準なでしこ銘柄等のESGインデックスの構成銘柄に選定されています。
●8つの重点領域(マテリアリティ)
・災害レジリエンスの向上
・デジタルを活用したイノベーションの支援・創出
・D&Iの推進・浸透
・適時適切かつ透明性の高い情報開示
・健やかで心豊かな生活の支援
・気候変動対策の推進
・事前の豊かさを守る
・子どもたちへの教育・啓発
出典:東京海上ホールディングス『サステナビリティ経営』
■7位:株式会社丸井グループ
環境・社会・ガバナンスを重視するESGを踏まえたサステナビリティの実現を新しい目標としている丸井グループ。未来志向の「本業=社会へのお役立ち」を掲げ、従来進めてきている「循環型ファッション」の取り組みをリユースからリデュースへと進化させるなど行っています。
重点テーマは「インクルージョン(包摂)」視点の4つです。
●丸井グループが掲げる4つの重点テーマ
・お客さまのダイバーシティ&インクルージョン:すべてのお客さまに喜んでいただける商品・サービス・店舗のあり方を追求
・ワーキング・インクルージョン:働き方や価値観など、多様性を受け入れる「ワーキング・インクルージョン」を推進
・エコロジカル・インクルージョン:自然と環境の調和を図るエコロジカルなライフスタイルを提案
・共創経営のガバナンスすべてのステークホルダーの利益、「しあわせ」の調和をはかるために、ステークホルダーをインクルードした経営の仕組みづくり
出典:丸井グループ『サステナビリティ』
■8位:TOTO株式会社
TOTOは「水回りを中心とした、豊かで快適な生活文化を創造する」という企業理念のもと、中長期戦略「新共通価値創造戦略TOTO WILL2030」を掲げています。重要課題となるマテリアリティでは「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」を策定し、経営とCSRの一体化に取り組むことでSDGsにも貢献するとしています。
●TOTOの掲げるマテリアリティ
・きれいと快適:「きれい・快適を世界で実現する」「すべての人の使いやすさを追求する」を設定し、「きれいで快適なトイレのグローバル展開」
・環境:「限りある水資源を守り、未来へつなぐ」「地球との共生へ、温暖化対策に取り組む」「地域社会とともに、持続的発展を目指す」を設定し、「節水商品の普及」や「CO2排出量削減」、「地域に根付いた社会貢献活動」
・人とのつながり:「お客様と長く深い信頼を築く」「次世代のために、文化支援や社会貢献を行う」「働く喜びを、ともにつくり、わかち合う」を設定し、「お客様満足の向上」「ボランティア活動への社員の参加促進」「働きやすい会社の実現」
出典:TOTO『CSR活動』
■9位:トヨタ自動車株式会社
自動車メーカーの最大手、トヨタ自動車では「モビリティカンパニー」を掲げてさまざまな取り組みを実施しています。例えばトヨタ環境チャレンジ2050」を策定した「環境」、人材に関する最上位の方針である「トヨタ自動車人権方針」を掲げる「社会」、グローバルリスクマネジメントの責任者として「Chief Risk Officer(CRO)」、及び「Deputy CRO(DCRO)」ポジションの設置など、リスクを予防・軽減する「ガバナンス」をはじめとしたESGに対する取り組みを行っています。
●トヨタフィロソフィーにおける宣言
・ミッション:「わたしたちは、幸せを量産する」
・ビジョン:「可動性を社会の可能性に変える」
・バリュー:「トヨタウェイ」
出典:トヨタ自動車『サステナビリティ』
■10位:日本電信電話株式会社(NTT)
事業活動を通じて社会的課題の解決を目指す「Your Value Partner」を掲げる日本電信電話(NTT)は、企業の命題としてESG経営に取り組んでいます。「環境(E)」に関しては環境エネルギービジョンによって顧客・企業・社会の環境負荷低減へ貢献する「環境負荷ゼロ」を制定。「社会(S)」はICTサービスのインフラとしてKDDIと社会貢献協定を締結し、大規模災害時の物資運搬協力や、災害対応の訓練・啓発活動における相互協力を開始しています。「ガバナンス(G)」においては、社外取締役比率を50%とし、企業経営の決定・監督の機能を業務執行の機能と明確に分離するなどの取り組みを行っています。
●NTTグループのCSRテーマ
・人と社会のコミュニケーション:ICT・データ利活用による社会への貢献/お客さま満足の追求/研究開発の強化・グローバル化
・人と地球のコミュニケーション:社会が低炭素化している未来へ/資源が循環している未来へ/自然と共生している未来へ/環境パフォーマンスデータ
・安心・安全なコミュニケーション:情報セキュリティの強化/個人情報保護/通信サービスの安定性と信頼性の確保
出典:NTTグループ『NTTグループのCSRテーマ』
ESGランキングで評価されているポイントを把握して企業価値を高める
今回紹介したランキングのTOP10に入る企業は、自社の事業内容にマッチするESG経営を実施しながら、環境問題や社会課題に取り組んでいます。課題に取り組むだけではなく、企業自体も成長するように戦略立てられていることが特徴です。自社にESG経営を取り入れるための参考になる部分が多いのではないでしょうか。
ESG経営を適切に取り組んでいくことで、社会への貢献はもちろん、企業自体の成長につもつながるでしょう。ESG経営はすぐに効果が見える取り組みではありません。長期的な視点をもって取り組むことが大切です。
NPO法人クロスフィールズは、社会課題体感フィールドスタディなどさまざまな事業を通じて、企業のESG経営加速を支援しています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。