テルモの製品開発担当がインドネシアで医療課題に挑む
テルモの高橋さんはインドネシア・ジャカルタへ留職し、日本へ帰国後はアメリカ赴任も経験しました。異なる環境での業務を振り返り、「世界中どこでも通じることを留職で学べた」といいます。
1本の針の価値を見つめ直すため留職へ
高橋さんは2013年、留職に参加しました。派遣先はインドネシア・ジャカルタで活動するNGO・Yayasan Kusuma Buana(以下、YKB)。低所得者向けの小規模クリニックを複数の拠点で運営しています。
高橋さんは3ヶ月にわたりYKBが運営するクリニックの医療廃棄物事故の防止などに取り組みました。
派遣当時、テルモでは医療製品の企画・開発担当だった高橋さん。留職への参加理由をこう振り返ります。
インドネシアの医療現場で見た現実と課題
現地に到着後、高橋さんはYKBが運営するクリニックを訪問し、スタッフへのヒアリングを行っていきました。現場の声を聞いていくうちに「使用済み注射針の管理が徹底されてない」という課題が見えてきました。放置された注射針が看護師に刺さり、HIVやAIDSに感染するリスクがあったのです。
そこで高橋さんはクリニックにおける注射針事故の防止に取り組むことを決め、さっそく仕組みづくりに取り掛かりました。具体的には、使用済み注射針に安全キャップをはめる習慣づけをスタッフに徹底することや指定の廃棄ボックス使用を定めるなど、改善策の検討と実践を行っていきました。
この過程では「自分がクリニック長だったら取り入れるか?」と自問自答しながら進めていきました。現地の100円ショップで材料を集めて廃棄ボックスを作るなど、試行錯誤の末に改善策が完成。
この改善策をもとに高橋さん自身がスタッフに向けてトレーニングを実施しました。トレーニングにはスタッフ全員が積極的に参加し、⾼橋さんの提案に⾃発的に⼯夫を加えるなど、問題改善に向けて全員が⼀丸となって取り組んでくれたそうです。
その結果、YKBが運営する複数のクリニックで改善策が取り入れられ、地域全体における注射針事故の防止につながりました。
報告書にはない「困りごと」とは
高橋さんがクリニック職員によく言われていたことがあります。それは「テルモの注射器は高い」ということです。
一方で、彼らが使っている注射器は低価格でしたが、液が漏れたり壊れやすかったりする品質の問題を抱えていました。
「注射器の安全な使用を徹底するにはどうすればいいだろうか」
こう考えた高橋さんが次に取り組んだのは、注射器のチェックシートの作成と運用です。これは、スタッフがシート上の確認点をチェックし、安全性を確かめてから注射器を使うというもの。高橋さんは地元の政府機関とも連携しながら注射器の確認点を洗い出し、シートの作成からスタッフへの周知まで行いました。
この経験で高橋さんは「現地はただ安いものを求めているわけではなくて、現地スタッフが置かれた環境下で守りたい品質、守るべき品質は必ずあると実感した」といいます。
高橋さんによる注射器チェックシート作成と運用を振り返り、YKBの代表はこう語ります。
留職での学びはアメリカでも活きた
留職後は2013年〜2016年までアメリカ赴任も経験した高橋さん。その際、留職で得た「現地のメンバーと信頼関係を築く大切さ」という学びが活きたといいます。