インドで花開く10年越しの『純粋で子どもらしい夢』
NECでインドにおける健康診断事業に携わる安川展之さん。NEC中央研究所の研究職だった2013年、インドのNGO・Drishtee(ドリシテ)に留職したことが、社会課題解決型の事業に関心を持つきっかけだったといいます。留職から現在の事業を立ち上げるまでの軌跡を伺いました。(聞き手:広報・佐藤)
インドやガーナを舞台に、予防医療の普及を目指す
―――現在はどんな事業を担当していますか?
ひとつはインドにおける健康診断事業です。急速に経済発展しているインドでは、中間層から貧困層を中心に糖尿病になる人が増えていて、2045年には1億人以上が糖尿病患者になるといわれています。
そこで私たちは糖尿病を未然に防ぐために、生活習慣病の予防を目的とした健康診断サービスを提供しています。新型コロナウイルスの影響を受けて一時的にストップしましたが、現在は影響も収まりつつあり、活動を再開しています。
直近ではインドだけでなく、ガーナでも事業展開をしています。
ガーナでは母子健康分野での栄養改善に取り組んでおり、インドで培ったノウハウを活用しようと試みています。現在最も深刻な課題の一つは、乳幼児の栄養不足です。加えてインドのように、栄養状態の偏りが原因で糖尿病になる中年期の方々も増えています。そのため予防医療を普及させ、こうした世界の健康課題の解決に貢献したいと考えています。
きっかけは留職―事業化まで諦めなかった10年
―――安川さんが貧困層向けの予防医療事業の立ち上げに関心を持ったのは、留職がきっかけだったんですよね。
安川)留職中、よく同僚から「君は若く見えるね」と言われていたんです。確かに周りを見渡すと、インド人の同年代の多くは恰幅が良く、確かに自分よりも年上に見える気がしました。
ただその反面、糖尿病になってしまったり、家族のなかには合併症を引き起こしたりしている人も多かった。そして糖質やたんぱく質といった栄養バランスに関する知識も不十分だから、偏った食生活の人も少なくありませんでした。
一度病気になってしまうと治療費が高く、生活も苦しくなります。糖尿病を未然に防ぐサービスを提供することで、こうした状況を解決できるのではないかと考えるようになりました。
――― 社内でゼロから希望する事業を立ち上げるのはハードルが高そうに見えますが……
当時は新規事業開発部の所属ではなかったことも相まって、確かに簡単ではありませんでした。異動希望を出すところから始め、新規事業部で募集があると聞いて手を上げ、2019年より事業の立ち上げを開始できました。そういう意味では自分から環境を変えていきました。
気づけば留職からもうすぐ10年。ほんとはもっと早く実現させたかったのが本音ですけど(笑)、諦めなかったので、ここまで来られました。
「お母さんのピクルスを食べてほしい」ー純粋な夢が心を動かす
―――諦めずに続けてこられた理由は何でしょうか。
もちろん帰国後は苦しい時期もありました。でもそんな時、いつも頭に浮かぶのが留職時代の同僚の姿です。
その同僚は農村部の女性に何らかの商品を作ってもらい、それを都市部で販売する「リバースサプライチェーン」という新規事業を立ち上げようと毎日熱心に活動していました。なぜそんなに熱心に取り組むのか聞いたら、「だって僕のお母さんのピクルスは世界一おいしいから、都市部に店を出して欲しい。その店があれば都市部の人たちは安い値段でおいしいピクルスが食べられて幸せだし、お母さんの生活も楽になるだろう」という、とてもシンプルな理由でした。
彼らのモチベーションの源泉は、いつだってnaïve(純粋)でchildish(子どもらしい)な夢なんです。夢は働いているといつの間にか忘れてしまいそうになります。でもその純粋な夢を自分も大切にしたいと思い、持ち続けてきました。
――― 安川さんにとっての「純粋で子供らしい夢」は何ですか。
僕はヒーローになりたいんです。(笑) 小学生の頃から「ターミネーター」とか「ダイ・ハード」といった強いヒーローを描いたハリウッド映画が大好きでした。誰もやりたくないけど、誰かがやらなきゃいけないことをやるとか、逆境に勝つとか、そういった生き方に憧れています。
思い返せば、NECを就職先として選んだのも、「日本の産業界を立て直したい」という夢がありました。そのカギになるのが社会解決型の事業だと考えています。実際、NECもICTを活用して社会課題の解決に貢献することを経営指針に掲げ、社内の雰囲気も変わってきました。
これからもチャレンジは続くと思いますが、諦めそうになった時はいつも留職時代に出会ったドリシテの同僚を思い出して自分に喝を入れています。
彼らに言われた「あなた自身が変化になる」という言葉とともに、挑戦を続けていきたいです。
編集後記
10年前に抱いた想いを忘れることなく、実現に向けて動き続けることができる人は決して多くありません。安川さんの意志の強さと、そこに至るまで何度も自問自答してきた積み重ねが、お話の節々からにじみ出るインタビューでした。
留職に限らず、生きていると様々なところでふとした出会いがあります。「楽しかった」「良い経験ができてよかった」で終わらせず、その時に抱いたシンプルな想いを大切にしていくことが、もしかしたら明日からの人生を変えるきっかけになるかもしれません。(広報・佐藤)
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安川さんが取り組むインドでの健康診断事業の詳細は、以下よりご覧いただけます