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課題解決するまで帰れない?パナソニックのデザイナーがベトナムの村で奮闘! 

パナソニックの山本さんは2012年、ベトナムでソーラークッカーを通じた環境問題と健康被害の解決に取り組む社会的企業で1ヶ月にわたり留職しました。

限られた時間にもかかわらず、現地団体から「課題解決をやり遂げるまで、日本に帰すわけにいかない」と言われ、短期間で成果を出すべく奮闘した山本さん。それから10年、当時を振り返りつつ、新規事業を担当するなか、留職で身についた失敗を恐れない姿勢とユーザー視点が活きているといいます。

目的は「ベトナム農村部の課題解決」

山本さんが留職に参加したのは2012年。パナソニック社でデザインコンサルタントとして働いていた時でした。

会社ではコンサルタントとして事業立案などに関わりつつ、自ら事業を推進してみたいと思っていました。同時に新興国でのビジネスにも興味があり、どうしたら現地での業務経験ができるか?と考えていた時に留職プログラムを知ったんです

山本さんの派遣先となったのは、ベトナム・ダナンで活動する社会的企業・ソーラーサーブ社でした。太陽光を活用した調理器具を通じて、農村地域の健康問題と環境問題に取り組んでいます。

ソーラーサーブが活動する農村では電気が通っておらず、人々は薪を使用して室内で調理をしていました。そのため煙を吸い込んで気管支の病気に悩まされたり、薪に使用する木を伐採して森林破壊が起こっていたりと、さまざまな課題を抱えていたのです。

農村の室内調理の様子(2012年当時)

ソーラーサーブの代表・ビック氏はこれらの課題を解決するため、太陽光を活用して調理する器具「ソーラークッカー」を開発。しかし材料等のコストがかかり、農村の人々が使用する価格で提供するのが難しいという状況でした。

ソーラークッカーと山本さん(写真・左)

そこで山本さんはパナソニックでの知見を活かして、ソーラークッカーのコスト削減に取り組むことに。日本から山本さんを支援するリモートチームも結成され、ベトナムでの活動が始まりました。

やり遂げないと日本に帰れない!

「ソーラークッカーの開発を10年以上行ってきたソーラーサーブに対して、日本から来た自分は1ヶ月で何ができるのか」そんなプレッシャーを抱えながら、山本さんは現地活動を開始しました。

現地で活動を行う山本さん(写真・左)

現地ではまず生産現場の視察やソーラークッカーの利用者へのヒアリングを実施し、そこから見えてきた製品の課題を洗い出し、改善案を作成していきました。

言語や仕事の進め方の違いに戸惑うこともありましたが、2週間経ったころ、ある程度納得できる案が出来上がりました。そこでその改善策をソーラーサーブのメンバーに提案したところ、代表ビックさんから「アイデアだけ出してもらっても意味がない。改善策をもとに製品を作り上げるまでやり遂げてもらわないと、日本に帰すわけにはいかないんだ」と言われたんです。

正直、驚きましたね。ここまで期待されているのか、と。でも段々と自分の甘さを痛感して、悔しくなりました。ソーラークッカーの試作版まで完成させる。そう決意して、残り2週間の活動に取り組みました

ベテラン社員まで巻き込んだ集大成

試作版を完成させるため、リモートチームと相談しながら試行錯誤を繰り返します。残りの留職期間が1週間となった頃、トラブルが発生。技術面でどうしてもクリアできない課題が生まれたのです。

煮詰まった時、リモートチームのメンバーが「社内のベテラン技術者ならアイデアがあるのでは」とひらめき、さっそく彼らに相談。パナソニックのベテラン技術者たちはメンバーの熱意に押されて参加することになりました。

ベトナムの社会課題に貢献できる面白さを感じた彼らは、夜遅くまで議論を展開。そこで生まれたアイデアが突破口となり、ついに従来よりも低コストで製造可能な試作品が完成しました。

ソーラーサーブの代表・ビックさんは、山本さんの活動をこう振り返ります。

これまで金銭的な援助をしてくれる方は多くいました。とてもありがたいことですが、本当に大切なのは一緒に手を動かしてくれることです。山本さんは毎日、私たちと一緒によく働いてくれました。成果物はもちろんですが、この姿勢自体がとても嬉しかったです

ソーラーサーブ社・代表のビックさん(写真・右)

留職で学んだ大切な視点

ベトナムでの留職を振り返り、山本さんは「現地の人々とともに汗を流しながら働き、大切な視点を得た」といいます。

日本の会議室で調査レポートを読むだけでは、「この事業は誰のためか?」というところまで想像ができませんでした。

しかし留職で現地の人々と事業を生み出す経験をした後は、プロダクトを届ける人々のイメージがありありと浮かぶになったんです。そのため提出されるレポートを読んだときに、「現地の人々はどんな状況で、どのような課題を抱えているのか」と、文章には書かれていない相手の背景や問題意識にも自然に想像が膨らむようになりました。

また、社会にとって本当に必要な製品を生み出すには、ユーザーの目線で考えることが大切だとも学びました。優れた技術だけあっても意味がありません。大切なのは現地のユーザー目線で考え、彼らのニーズと自分が持つ技術を組み合わせること。これを体感したのが留職でした

留職から約10年、イノベーションを起こし続けたい 

ベトナムから帰国した後、パナソニックで新規製品の開発などを担当してきた山本さん。ベトナムでソーラークッカーの試作を重ねた経験が、その後の業務に対する姿勢を変えたといいます。

留職前の自分は、失敗しないために準備をしっかり行うタイプでした。でも短期間の留職ではそんな時間はありませんでした。限られた時間で成果を出すため、留職ではとにかく実行し、トライ&エラーを重ねていきました。そうしたら、失敗が怖くなくなりました。

帰国後、留職で得た失敗を恐れない姿勢ユーザー視点で想像する力を活かして、さまざまな製品開発に携わってきました。今後も自分たちの持つ技術と現地のニーズを組み合わせ、イノベーションを起こしていきたいです

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山本さんは動画「留職経験者たちのAfter Stories」でも、留職経験とその後のキャリアについてお話いただいています。合わせてぜひご覧ください!