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中外製薬のプロジェクトマネジャーがインドで社会課題に向き合い見つけた信念

中外製薬の永山さんは、2023年5月から8月にインドへ留職しました。留職先の中期経営戦略やその実行体制づくりなど、組織のコアの部分に携わった永山さん。留職では社会課題の現場と向き合いながら、自身が人生を通じて成し遂げたい信念を見つけていきました。

留職に参加したきっかけ

入社17年目の永山さんは製薬研究部門などを経て、製品ライフサイクル管理部門でプロジェクトマネジャーとして活躍していました。これまで複数の海外案件を担当し、チームメンバーからの信頼も厚い永山さんが3ヶ月の留職に参加した背景をこう振り返ります。

年齢を重ねるにつれて挑戦することに臆病になっている自分の殻を破りたい。そして、これまで多忙を理由に目を背けていた新興国の社会課題と真正面から向き合いたい、という気持ちから留職に応募しました。社会課題解決の現場で活躍する社会起業家がもつビジョンや情熱に触れて、自分のリーダーシップを進化させたい、という期待もありましたね。

自分はプロジェクトマネジャーというポジションでしたが、応募段階から上司に相談していたので、派遣が決定した後もスムーズに業務の調整を支援してもらえました。今後のキャリアプランを含め、日頃から上司と密にコミュニケーションをとっていたことも背中を押してもらえた要因かもしれません。

派遣先はインド・ムンバイで活動するThe Breakfast Revolution(以下、TBR)です。インドでは急速な経済発展が進む一方で貧富の差が拡大しており、スラムや貧困家庭出身の子どもたちの栄養課題が深刻化しています。TBRは「インド中の子どもの栄養失調問題の撲滅」を目指して、子ども向けの健康診断サービスの提供や、高栄養価の食品の生産・販売/配布などに取り組んでいます。

永山さんはTBRの経営チームに入り、これまでの経験を活かしながら事業拡大戦略の立案、プロジェクトマネジメント、既存事業の推進などに取り組むことになりました。

活動1週目、TBRメンバーと永山さん(本人・写真中央)

現地で体感した子どもたちの厳しい現状

活動1週目、永山さんはTBRの活動地域を訪問しました。ムンバイで最も低所得層の人々が暮らす地域で、TBRが支援する家庭の生活の様子を見て回ります。TBRのメンバーによると、そこに暮らすほとんどの子どもは貧しさゆえに朝ごはんを満足に食べられないのだそうです。永山さんは訪問をこう振り返ります。

子どもたちの住む住居や周辺の衛生環境を目の当たりにして、しばらく言葉が出ませんでした。これまで”社会課題”と一言で括っていたけれど、実際に現場を訪問すると課題は途方もないほど大きくて複雑だと痛感したんです。

3ヶ月の留職で、自分に何ができるか……。そう考えるうちに、”より多くの子どもにTBRの栄養改善プログラムを提供して、笑顔を増やしたい” という気持ちが生まれてきました。この実現のためには、小さな変化を一つずつ重ねていくしかない。そう決心して留職の活動をスタートしました。

メンバーと現場を訪問する永山さん(本人・右)

活動当初から経営チームに参加した永山さんですが、当初は中長期の成長戦略を考えるうえで必要なTBRの財務情報やステークホルダー、マーケットの情報など、なかなか得られなかったといいます。

団体にとって新たなアプローチをプレゼンし、その実現に向けて必要な情報提供を求めたのですが、経営メンバーに私が情報を必要としている理由が伝わりませんでした。時間が限られているなかで、このままではまずいと焦り始めたとき、TBRではメンバー同士がとにかく対話をして理解しあっているのだと気づきました。

そこから完璧な準備を重視するというよりは、自分の意思を伝えて相手の期待を聞くことを繰り返し、一緒に考えることで経営メンバーとの信頼関係を構築していきました。そうするうちに必要な情報も共有してもらえて、成長戦略を考えるための材料が集まっていきました。

対話を通じて経営チームの改革に取り組む

経営メンバーと対話を続けていくうちに、永山さんは経営チームの課題に気が付きました。TBRは団体のビジョンに”2030年までに累計利用者100万人”を掲げていましたが、その実現に向けた組織戦略を各経営メンバー間で議論する風土が無く、具体的な方針を打ち出せていなかったのです。

TBRでは代表がトップダウンで戦略を決めていて、マネジャーがそもそも戦略立案に関わることがありませんでした。そのためマネジャーたちは提案することに消極的になっていて、代表との間に心理的な壁があると感じていました。

お互いの認識を合わせなければ、大きなゴールを達成できない。経営チーム全体で戦略方針を話し合う組織風土に変えていきたいと考え、まずは一人ひとりにその必要性を伝えていきました

経営チームのメンバーと対話を重ねる永山さん(写真・左)

このとき大切にしたのは、相手に私が取り組みたい理由を共有することです。”自分はより多くの子どもにTBRのサービスを届けて、彼らの笑顔を増やしたい。そのためにはTBRの事業を拡大させる必要があるから、まずは経営陣みんなが戦略を話して各事業の方針を具体化できる組織風土をつくりたい”と伝えていきました。

同時に私が代表とマネジャーの間に立ち、一人ひとりの意見を伝えたので、彼らが互いの考えを理解しあうように。すると代表とマネジャーの壁が崩れ初め、経営メンバー全員で戦略を考えるチームへと変化していきました。

永山さんの取り組みによって経営チームで戦略について議論をすることが日常的になり、チーム全体で中長期的な戦略を構築するように。さらに各事業の方針が具体化され、新製品の開発やパートナー拡大に向けた行動目標など、次々と新たな事業モデルが生まれていったのです。

さらに新規事業モデルの実行には、全てのメンバーの理解と協力が必要だと考えた永山さんは、チームへの働きかけも起こしていきます。

TBRの行動指針のようなものがあれば、メンバーがより自律的に行動できるのではないかと考えました。そこで一人ひとりに人生で成し遂げたいことや大切にしている価値観などを聞いてまわり、その内容をTBRが大切にしたいリーダーシップの要素としてまとめ、団体の指針として全員に共有していきました

折り紙を使ったワークショップなども実施し、メンバーとの距離を縮めた

そのほかにも既存事業の推進、資金調達プラットフォームの開拓、TBRサービス利用者へのヒアリングとワークショップの実施など、3ヶ月で様々な成果を生み出した永山さん。TBRの代表・Neelamさんは、留職をこう振り返ります。

永山さんは十分な知識、分析力、戦略立案・提案力があり、短期間でTBRを大きく成長させてくれました。彼の行動や仕事に対する意識はメンバーにもポジティブな影響を生み出しています。いつでも戻ってきてほしいくらい、心強い存在です。ビジネスと社会課題解決のバランス感覚が優れている永山さんは、今後素晴らしいリーダーになると思います。

TBR代表・Neelamさんと永山さん

留職で生まれた自身の変化

留職を通じて、永山さんは自身に様々な変化が生まれたと振り返ります。

これまでの仕事の進め方は、準備をきちんとして、失敗なく物事を進めるという方法でした。しかしTBRでは完璧なプレゼンよりもまず対話と行動が必要だったので、自然と柔軟な行動が取れるようになりました。

こうした行動ができたのは、3ヶ月の留職において”より多くの子どもにTBRの栄養改善プログラムを提供して、笑顔を増やしたい”という強い気持ちがあったからです。

同時に「人々の笑顔を増やすには、まずは自分が笑顔にならないと」と気づき、誰かに話しかけたり、対話をしたりする時には微笑みを忘れないことを意識するようになりました。

TBRメンバーと民族衣装を楽しむ永山さん

一方、インドで目の当たりにした複雑な社会課題を解決するためには、より早く、大規模かつ持続的に様々なステークホルダーが課題解決に取り組むことが不可欠だと感じていました。

そのため留職後の事後研修では、これからの人生において、どのような社会を創りたいのか?そのために仕事を通じて何ができるか?という問いと向き合い、” すべての人が自らの意思で価値ある選択ができる社会を実現したい” という信念が見つかりました。一人ひとりが自分にとって価値のある選択をすることで、より豊かな暮らしができる社会にしたい、と強く思っています。

留職後は製品ライフサイクル管理部門で、製品リーダーという組織の中核を担うポジションを担当しています。日々、チームの一人ひとりが実現したいことを引き出し、彼らの選択を応援しながら、自身も挑戦を続けるリーダーを目指しています。同時に、当社の製品を社会に提供することの原点や意義を見つめ直しつつ、社会に新たな価値を創造していきたいです。

クロスフィールズ担当者のコメント


プロジェクトマネジャー・花井

永山さんの留職で、特に忘れられないシーンがあります。それは派遣先の団体が支援する低所得層の人々が暮らすエリアに訪れた時のことです。永山さんは深い溜息を吐き、呆然とした表情で「想像以上に過酷な環境だ……」と発していました。

この日から永山さんは「自分は誰に、何を届けるのか」という問いと徹底的に向き合いに、留職の最終日まで団体貢献とその先の社会課題解決に自身の持つ全てを注ぎ続けました。留職で永山さんが見つけた信念をこれからも存分に燃やし続け、より良い社会を創るリーダーとしての挑戦を応援しています!(プロジェクトマネジャー・花井)