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PwCコンサルティングの社員が2年にわたりNPOに出向。クロスセクターでの社会課題を加速

PwCコンサルティング合同会社は、2017年に社会課題体感フィールドスタディ(以下、フィールドスタディ)への参加を皮切りに、様々な形でクロスフィールズと社会課題の解決に向けた連携を行ってきました。2024年にはクロスフィールズが同社より2名の出向者を受け入れるなど、ビジネスとソーシャルの連携は新たなフェーズに入っています。(前編の記事はこちら

後編では同社から2名の社員が2年にわたりクロスフィールズに出向した背景や今後の展望について、常務執行役パートナー チーフ・インパクト・オフィサーの宮城隆之氏より伺いました!

社員2名のNPO出向を決断した背景

小沼:2024年8月より2名のメンバーをクロスフィールズに出向として派遣いただいています。この実施背景もCIMOの設置にあると理解しているのですが、出向の背景についても教えてください。

宮城:出向の話が生まれたのは、私が2023年に参加したケニアでの社会課題体感フィールドスタディだったと記憶しています。そこで小沼さんやクロスフィールズのプロジェクトマネージャーの田熊さんと「ビジネスセクターとソーシャルセクターとで人材がもっと本格的に行き来したら、マルチセクターで意義ある座組みができそうだ」というビッグピクチャーを描いたことがきっかけです。

それからしばらくしてクロスフィールズから出向の話がきて、「面白そうだな」と二つ返事で派遣を決めました。もちろん直感だけではなく、いくつか理由があります。

1点目が人材の流動化による社会貢献です。長年、コンサルタントとして働いていますが、特に近年は優秀なメンバーが入ってくるようになったと感じています。同時にそういった優秀な人材をもっと社会に還流させることが必要だと考えており、人的リソースが不足しながらも社会課題解決という難易度の高い挑戦をするソーシャルセクターに人材を提供することで、社会貢献につながると考えています。

2点目がソーシャルセクターの視点を備えた人材の育成です。NPOという民間企業とは異なる環境で働くことで、NPOの文脈を深く理解したり、様々なステークホルダーと共感をもとに何かを創り上げて推進したりする経験を期待しています。そのような経験を経て得られるスキルやNPOの文脈で物事を考える視点は、出向後にビジネスセクターに戻った時も重要になってくると考えています。

そして3点目がクライアント企業に向けて成功事例をつくることです。複数のクライアントと話すなかで、NPOに出向者を出したいと考えている企業は少なくないと感じています。一方で「どの団体に、誰を、どのようにして派遣すべきか」という悩みを抱えていたので、自社として先行事例を作り、ソーシャルセクターへの人材派遣のモデルを発信したいと考えています。

出向者(写真・中央2名)とクロスフィールズメンバー

小沼:たしかに、今の日本ではコンサルティング会社やスタートアップに優秀な人材が集中しており、社会全体として人材配置が不均衡になってきているとも感じています。この課題を認知し、「出向」という形で解決に向けた行動を起こして、さらにソーシャルセクターからの学びを得ていこうとしているPwCさんの姿は今の時代において先駆け的な存在だと思っています。

今回の出向は「企業からNPOへの出向事例」としてさらに発信していきたいですし、社会の流れも相まってこの後に続く企業が増えていくのではと感じています。(出向に関するプレスリリースはこちら

小沼:出向者の1名は私のもとで働いています。出向開始から1ヶ月が経ったタイミングで「クロスフィールズでの出向でどのような経験をして、何を得たいか」について改めて話してもらいました。

彼女は「これまでは目の前のクライアントからの期待に応えようと仕事をしてきた。でもNPOで働いてみると、社会課題の現場にいる方々、経済同友会、新公益連盟など様々なセクターの人々の声を聞く機会が多くあり、そのなかで“自分はこうしたい”という軸がないと前に進めないことに気づいた。
そのため、マルチセクター連携に関する事業に携わるなかで、自らビジョンを描いて共感で人を巻き込む経験をしたい」と話してくれました。

ソーシャルセクターではこのような経験ができる機会が多くあるので、今回の出向者2名にはビジョンを描いて様々なステークホルダーを巻き込む経験が得られるような業務にあたってもらえるよう意識しています。

宮城:送り出した側として、ただ「ソーシャルセクターで働いて、気付きを得る」のではなく、リーダーシップスキルを身に着けてきてほしいと考えています。そのため、期間は数ヶ月ではなく2年に設定しました。

出向者が2年後に戻って来た時に、彼女らがソーシャルセクターで培ったリーダーシップを発揮し、活躍できる土壌をつくっておくことが必要だと感じています。CIMOの責任として、その土壌づくりに向けた行動も起こしているところです。

経営課題の先にある社会課題の解決へ

小沼:CIMOとしての今後の展望を教えてください。

宮城:展望としては、クライアント企業の経営課題の先にある社会課題の解決に取り組むことです。そのために社内外のステークホルダーを巻き込んで、コレクティブインパクトのアプローチで課題解決に取り組むことが重要だと考えています。

具体的には、すでに取り組んでいる社会課題へのアプローチを拡大していきつつ、取り残されているような課題にもアプローチをしていくことです。その時にどのようなステークホルダーと、どう協働すべきか?などを進めるうえでも、クロスフィールズという社会課題の現場をよく知る水先案内人との連携が深まることは大きいと感じています。

2019年に創設したSIIは社内のムーブメントを起こして内的な自発性を発揮することを目的としていました。一方でCIMOはその一歩先、「課題を解決しにいく」行動を起こすことを目指しています。社会課題の解決には企業の力を活用することが必要ですが、共感だけで企業を動かすことは難しい。そうではなくて、「企業の経営課題の先に社会課題がある」と、社会課題と企業経営を結びつけて、課題解決に取り組んでいくフェーズに来ているのです。

小沼:ソーシャルセクターとしては、これだけ大きな挑戦をしている企業の存在を心強く感じています。この10年でSDGs/ESGの流れもあり、世の中ではサステナビリティや社会課題がビジネスの文脈でも語られるようになってきたと感じています。しかし、世界全体が持続可能な社会に向けて本質的に変化してきているか?と考えると疑問が残っており、このままでは時代の流れとともに一過的なものとして終わってしまうという危機感もあります。

一方、日本では経済同友会が「共助資本主義」を掲げて新公益連盟やソーシャルセクターとの協働を加速するなど追い風が吹いています。このタイミングで社会課題に向き合う当事者と解決に取り組む企業の双方が“やってよかった”と腹落ちできる取り組みを1つでも多く生み出すことが求められていきますし、そういった成功事例をいくつ作れるかが今後のカギとなってくると考えています。そして、その先として「社会課題の解決は、企業目線で見ても長期的にやるべき」という経営視点を生み出すことにも取り組んでいきたいです。 

そしてコレクティブインパクトを牽引できるビジネスとソーシャルのバイリンガル人材を生み出していくことも、同じく重要になってきています。

特に、CIMOの活動に関わる人々がバイリンガル人材になることに期待しています。その方法は出向かもしれませんし、一緒に事業を行うことかもしれません。今まではフィールドスタディという形での協働でしたが、今後は一緒にプロジェクトを行い、クライアントを含めて携わる人々の変化を同時多発的に起こしていきたいと思っています。

宮城:そういったプロジェクトからPwCコンサルティングのリーダーや、さらには社会のリーダーが生まれてほしいと思いますね。

「セクターを超えた同志の存在」を生み出していきたい

小沼:色々なNPOとご一緒されているなかで、クロスフィールズに対してどのような期待がありますか?

宮城:クロスフィールズは意志がありつつ、取り組む課題に偏りがないことや、幅広いネットワークを持っていることが特徴だと思います。あとはクロスフィールズのメンバーの方々は、パッションを持ちながら視座を高く持ってビジョンを描いており、その志に共感できることが多いです。あとはビジネス経験のあるメンバーが多く、ビジネスサイドの視点も理解してくれるので、物事が進めやすいと感じています。

小沼:ビジネスとソーシャルの協働にはビジョンや志への熱量が大事だと思っています。ただ、最近は「ビジネスとソーシャル」といっても結局は1つの企業と1つのNPO、さらには個人同士の協働なのだと感じています。だから「個」がどれだけセクターを超えて混じり合えるかということが大事ですよね。

個として同じ時間を共有してつながりをつくり、様々なセクターに「同志」が存在していることが、コレクティブインパクトを起こしていくうえで重要だと思います。どうすればそういった個人が生まれて、クロスセクターで社会課題の解決に取り組むことができるか。これからも一緒に挑戦したいと思います。