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ソーシャルセクターにも越境が必要?交換留職で生まれた成果とは

「アートを通じた障がい者支援を行う日本とベトナムの2つの団体をつなげたら、想像以上の変化が生まれたんです」

こう振り返るのは、交換留職プログラムを担当したクロスフィールズの西川と鈴木です。

交換留職とは共通する社会課題の解決に取り組む団体が、国境を超えて学び合うプログラムです。今回は2021年11月から22年8月にかけて実施し、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(日本/以下、AAJ)と、Tohe(ベトナム)の2団体が参加しました。

プログラムの流れとして、まず2021年11月から12月にかけて両組織の代表を含む組織間の学び合いセッションを2回実施。その後、両団体の留職者3名に向けた事前研修を22年5月上旬に行い、5月中旬から7月中旬にかけてベトナムと日本を訪問、8月に事後研修、というスケジュールで実施しました。

ベトナムでの活動の様子

今回の交換留職はコロナ禍により2年越しでの実現となりました。実施に至ってどのような挑戦があり、プログラムで生まれたインパクトは何だったのでしょうか。

プログラムの企画から実施まで担当したクロスフィールズの西川と鈴木が、その裏側を振り返りました。(本プログラムはトヨタ財団の国際助成プログラムにご支援いただき実施いたしました)

インタビュイー:写真左から西川、鈴木

交換留職の背景と実現までの長い道のり

――そもそも、なぜ交換留職プログラムが始まったのでしょうか?

西川:留職プログラムで日本企業からの派遣者を受け入てくれた海外のNGOや社会的企業から「自分たちも留職したい」「同じテーマで活動する日本の団体から学びたい」という声があり、それに応える形で2019年に交換留職がスタートしました。当初から「日本の団体が一方的に何かを教える/教わるのではなく、双方が学びを得られるプログラムにする」ということにこだわり、この目的に共感してくれる国内外の団体と実施してきました。

そのため、今回は交換留職の目的に共感してくれたベトナムのToheとの実施が最初に決まり、彼らがアートを通じた障がい者支援に取り組んでいたので、その軸でパートナーとなる日本の団体を探しました。

ただ、これがかなり難航して……。小さな組織ではよくあることだと思いますが、職員を3週間も外部に派遣することは大きな負担なんです。

でも最終的に巡り会えたAAJは、代表の柴崎由美子さんが「自分も若手の頃に海外研修へ行き、それが大きな財産になっているから他のスタッフにも経験してほしい。また、私たちが受け入れるToheの2名にとっても価値のある時間になるよう、全力で協力したい」と交換留職に共感し、全面的にサポートいただきました。これは本当に嬉しかったし、絶対いいプログラムにしよう!と気合いが入りましたね。

こうして今回はAAJからアート鑑賞プログラムなどに取り組んできた平澤咲さん、Toheからは製品デザイナーのTrang(チャン)とプロジェクトマネージャーのMinh(ミン)が参加することになりました。

――でもようやく参加団体が決まったと思えば、コロナで幾度となく延期を余儀なくされましたよね。

西川: コロナ禍の影響で2020年5月の予定だったものが半年、またさらに半年と延期されていって・・。プログラム自体を中止しようかと心が折れそうな時もありましたが、ToheとAAJの代表が「こんな機会は他にないから、絶対にやりたい」と言ってくれたので、私もそう簡単に諦められない!と粘り続けました。

ようやく22年5月にプログラムが実現し、第一弾としてAAJのスタッフ・平澤さんをベトナムに派遣できました。派遣当日まで、「これから何が生まれるんだろう」というワクワクと、「本当に行けるのか?」という不安が混ざっていましたね。

鈴木:私はコロナ禍の21年4月にクロスフィールズに加入し、交換留職がはじめての海外案件でした。それまでは国内事業を担当していたので、今回の交換留職でベトナムに訪問し、クロスフィールズの持つ海外のネットワークや「異なる価値観を持つ人々をつなげて、新たな発見を生み出す」という私達の役割を実感する機会にもなりました。

ベトナムと日本、それぞれで留職者に生まれた変化


――AAJからToheに留職した平澤さんはどのような活動をしましたか?

鈴木:平澤さんはこれまで培ってきたアート鑑賞プログラム運営の経験を活かし、3.5週間にわたりToheとアート鑑賞ワークショップの企画から開催まで担当しました。Toheメンバーとアイデアを出し合って構想を練り、最終週にはToheのアート教室に通う自閉症の子ども向けにワークショップを開催しました。

印象的だったのは最初に留職期間中の業務内容を決める際に、平澤さんが「私が一方的に教えるのではなくて、一緒に何かを創り上げて、その過程で自分もToheから学びたい」と提案していたことです。普段は物腰が柔らかい平澤さんが、教えるだけでなく対等に学び合いたいとはっきり伝えていたことは、Toheでの経験をAAJに還元したいという強い目的意識があったからだと思います。

平澤さんはToheメンバーとディスカッションを重ねた

西川:さらに、「失敗しちゃダメだ」と緊張していた平澤さんが、Toheメンバーと打ち解けていくに連れて「失敗してもいいから、挑戦を楽しんでいこう」というマインドに変わっていった様子も印象的だったよね。緊張がほぐれてからの平澤さんはどんどん自分のアイデアを伝えたり、Toheメンバーを巻き込んだりして一緒にアート鑑賞ワークショップを創り上げていって。

鈴木:自分の想いを伝えたり、チームを巻き込んだりする姿勢は、帰国後もAAJで活かしていましたよね。留職から3ヶ月後に実施した最終報告会で「今は自分の想いを積極的に発信し、周りのメンバーにも伝播していくような環境づくりを行っている」と話していて、Toheでの活動を通じて平澤さんらしいリーダーシップの形を見つけたのだと思います。

――ToheからAAJに留職した2名はどのような活動をしましたか?

鈴木:Toheの参加者・Minh(ミン)とTrang(チャン)は、2週にわたってAAJの活動拠点の奈良・仙台・東京を訪問しました。2名はAAJが展開する障がいのある人によるアート製品の製造〜販売の現場、福祉施設での生活支援事業、コミュニティや企業との協働の在り方などを視察しました。

AAJの活動拠点を視察するミンとチャン

西川: 創業16年目のToheにとって設立29年目のAAJはある意味「先輩」のような存在だったのかもしれません。AAJの事業モデルや取り組みの数々を知った2人は「早くToheのメンバーに共有したい!」と目を輝かせていました。

また、AAJでずっと福祉に携わってきたスタッフの方々との出会いは、ミンとチャン自身にとってキャリアを考えるきっかけにもなったようです。彼らはまだ20代前半で、自身の将来のキャリアへの不安もありました。
そんななか、20年以上にわたってこのテーマに関わり続けるAAJの方々から仕事にかける想いや長年続けている理由を聞き、「これからどう働いていくか」思いめぐらしている様子でした。Toheは若いメンバーが多いので、共通の領域でキャリアを積んできた方々に出会えたことも、彼らにとって大きな価値だったと思います。

留職から半年、個人の学びが組織に広まった


ーー交換留職の実施から約半年が経ちますが、プログラム後にToheとAAJにはどんな変化が起きていますか?

西川:Toheでは留職者のミンがリーダーポジションに昇進し、チャンも次期リーダー候補になっています。

また、組織レベルでも変化が起きています。Toheは障がいのある子どもの絵をもとに雑貨を製造していますが、商品化のプロセスに障がいのある人は関与していませんでした。一方、AAJでは製造プロセスにも障がいのあるメンバー(以下、メンバー)が携わっていて、主体はいつもメンバーだということが特徴でした。これを知ったミンとチャンは組織に共有し、その結果、Toheも商品化プロセスにも障がいのある人も参加できる仕組みづくりを目指して、組織改編を進めているのだそうです。

また、AAJはToheを受け入れたことで自らの持つリソースを再認識し、それを活かした新規事業をスタートしています。そのひとつが全国の福祉の現場を舞台とした体験ツアー「Good Job! Travel」で、その第一弾は22年の秋に実施されました。

どちらの団体も交換留職で個人が変化し、さらに団体としても得た学びを最大限活かして行動していて。そのスピードは私たちの想定以上でした。

鈴木:この背景には、同じ課題解決に取り組む団体が互いのビジョンを深く理解できたことがありますよね。だからこそ、事業モデルのヒントを得たり、自組織のあり方を見つめ直したりできたのだと思います。

西川:通常の留職プログラムは、「大企業の社員が小規模のNPOで活動し、そこで自分の強みや大切にしている価値観に気づく」という側面があるけど、交換留職ではこの気付きが参加者だけでなく、団体の代表や組織にも波及したよね。規模感が近しく、かつ共通の社会課題に取り組む団体同士だったから、個人の学びが組織の変化につながったと感じています。

自分自身も越境。次につながる経験に


――最後に、交換留職を経て描く今後の展望を教えてください。

鈴木:ソーシャルセクターの団体同士をつなげて、学びの機会を提供する事業は続けていきたいです。私を含めて、そういった機会がなかなかないのですが、交換留職では他団体との学び合いが組織の変化につながり、それが社会のインパクトにつながると実感したので、これからも実施できるといいなと思います。

西川:クロスフィールズとしてこれから課題の現場に入っていくなかで「現場の方々の想いや価値観を知ること」が本当に大切だと実感しました。
これは私自身が交換留職で福祉の現場に「越境」できたからこそわかったことです。

AAJを訪問した際に現場で働く職員の方々と話す機会があり、そこで彼らが現場で障害のあるメンバーの方々に向き合う姿勢や表情がすごく印象的で、「(メンバーと)毎日一緒に過ごすなかで、たとえ時間がかかったとしても、彼らに1mmでも変化があったら嬉しい」という話を聞いて、ハッとしたんです。私たちはこの1mmの世界に入っていこうとしているけど、そこで大切にされている価値観に気づけているのだろうか、と。

クロスフィールズはこれまで中間支援的な取り組みが多く、社会課題の現場と距離がありました。しかし今後は「課題の現場にリソースを届け、ともに解決策をつくる」というミッションのもと、より課題の現場に入っていきます。そのとき、今回のプログラムでの気づき、つまり現場の方々が抱いてる価値観に触れて、それに共感することを大切にしていきたいです。



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