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宮城県女川町で日立の研究者が受けた刺激と見つけた「志」

(株)日立製作所研究開発グループ [以下、日立(研開)] の未来を担う研究者約30名が社会課題体感フィールドスタディに参加しました。普段の業務を離れ、宮城県女川町に飛び込み、自身の志を見つけていった参加者たち。

今回は2023年秋に実施したプログラムの様子を現場のプロジェクトマネージャーがレポートします!

舞台は「未来の社会課題」に取り組む女川町 

今回の社会課題体感フィールドスタディには、日立(研開)で次世代リーダーとしての活躍が期待されるメンバー約 30 名が参加しました。目的は組織を担うリーダー人財としての視野拡大と、企業研究者として社会に起こしたい変化を深掘りし、自身の志を見つけることです。
 
プログラムは事前セッション(1日)、予習セッション(0.5日)、現地訪問セッション(1泊2日)、振り返りセッション(1日)で構成されました。

参加者は現地訪問を踏まえて「自身が研究者として、創りたい世界」「企業研究者としてありたい姿」を考え、”マイソーシャルミッション”として自身の志へと昇華させていきました。
 
プログラムの舞台は宮城県女川町です。女川町は東日本大震災をきっかけに大幅な人口減少を経験しましたが、町の将来を担う次世代を中心としたまちづくりを行った結果、町外からの移住者や活動人口(※)の増加を実現しています。
 
※女川町における活動人口とは、「女川町を活用してさまざまな活動を行う人々」を指します。復興後の持続的なまちづくりに向けて行政・民間が一体となり、活動人口の創出に取り組んでいます。

プログラムでは復興を果たした女川の港も訪問 

女川町は、震災による津波で町の8割以上の家屋が流されるという大きな被害にみまわれた町です。そんな壊滅的な状態から立ち上がるため、町は「還暦以上は口を出さない」をキーワードに掲げ、復興に取り組んできました。

この言葉の背景には、震災を機にこれまで町の中心を担ってきた60代がまちづくりの役割を手放し、将来を担う次世代にバトンを渡していくことを決断したことにあります。この方針を商工会長が自ら表明し、産業界の人々も賛同した結果、60代以上の方々の全面的なバックアップをもとに、次世代を中心とした復興が推進されていきました。 
 
具体的には行政・議会・町民・産業界などすべてのセクターの人々が一丸となってまちづくりに取り組み、町の中心地域に人々が集まりやすい「コンパクトシティ」を実現しました同時に活動人口を増やす取り組みを進め、起業家支援や企業の誘致などを行い、2015年から2020年の5年間で人口が増加してきています。

 そんな女川町を参加者は1泊2日で訪問し、復興を牽引した町役場の方や地元で活動するリーダーとの対話を通じて、「自分はどのような社会をつくり、次世代につなげたいのか」「その実現のために研究者として何ができるか」などを見つめ直していきました。

現地訪問に先んじて行われた事前セッションでは、女川を訪問する理由などのインプットを実施。参加者はプログラム全体の理解を深めながら、社会課題の現場に越境する心構えを醸成していきました。

 現地でリーダーの熱量を直に感じる

いよいよ女川町を訪問し、2日にわたる現地セッションのスタートです。前半は多様なゲストからお話を伺っていきました。

 女川町 総務課 公民連携室 室長・青山さんとの対話では、震災経験から復興のストーリーを伺いました。

自身も震災を経験し、その後の復興とまちづくりを牽引してきた青山さん。どのような想いで女川町の行政と民間をまとめて復興を引っ張ってきたのか、など語っていただきました。 

女川町 総務課 公民連携室 室長・青山さん

ご自身も被災し、壮絶な経験をされた青山さん。女川町の復興とまちづくりに携わったきっかけや、自身の想いを参加者に語りかけます。

青山さん:私と同じく復興とまちづくりに携わったのは、30,40代の次世代層がメインでした。「還暦以上は口出さない」という言葉のもと、商工会長やベテランの町民の方々は私たちを全面的にサポートしてくれました。

彼らの決意は、私たちの「自分たちがやらねば」という覚悟につながり、全力で取り組みました。  

 青山さんのお話を伺った参加者からは、「自分たちのことは自分でやる、という信念を感じ、社会イノベーションを考えるうえで示唆的だった。自分も情熱を持って社会を変えていかなくては、という気持ちがかきたてられた」などのコメントが聞こえてきました。 
 
次にお話を伺ったのは、NPO法人アスヘノキボウ代表・後藤さんです。東京出身の後藤さんは、大学時代に女川町に出会い移住を決意。同法人に入社後は起業支援などに取り組み、2022年に代表へと就任しました。 

NPO法人アスヘノキボウ代表・後藤さん(写真・中央)

後藤さん:震災後に見た女川の復興や人々の生き様を通じて、日本や世界の未来は女川にあると信じ、移住しました。

「将来、死ぬまでに本当にやりたいことは何か?」考え抜いた結果、自分は祖国・故郷をよくしたいと願い行動する人たちの力になりたいのだと気づき、今は女川の復興の知恵と意志を次の被災地・次の世代につなげる活動に取り組んでいます。

女川町を「自分事」としてとらえ、活動人口の創出によって新しい地域のあり方の実現に取り組む後藤さん。

彼との対話を通じて、参加者からは「自分の想いに基づいてまずは行動してみることが、やがて地域や社会への貢献につながるのだと感じた」などの声が聞こえてきました。

町歩きでは現地の方々と対話する時間も 

インプットで得た刺激をもとに内省と対話を繰り返す

前半のインプットをもとに、後半ではアウトプットを重ねていきました。女川町のリーダーとの対話を通じて、思ったこと・感じたことを言語化し、じっくり自身の志を見つめていきます。

 「女川の姿から予測できる日本や世界の未来の姿はどのようなものか」
「研究者である自分はどのような未来をつくりたいか」

 などの問いに対して自分なりの答えを見つけ、参加者同士で共有していきます。

普段はなかなか向き合わない問いに対して最初は険しい表情の参加者もいましたが、内省と対話を深めていくにつれ、自分なりの言葉に表していきました。

対話は屋外でも実施し、開放的な雰囲気で内省を深めた 

対話を重ねるにつれて、参加者からはこのような声が聞こえてきました。 

・これまで目の前の研究に集中しがちで、あまり社会と自分の仕事のつながりを意識したことがなかった。でもプログラムを通じて課題解決の方法は多様で、自分の仕事も間接的に社会とつながっていると実感した

自社事業からは遠いと思っていた社会課題の分野にも事業機会があることに気づいた。では、自分はどのような課題に取り組み、どんな社会をつくりたいのだろうか?

自身の考えを他の参加者に共有し、相手からのコメントを踏まえてさらに内省を深める……繰り返していくうちに、それぞれの考える「自身が企業研究者として、リードしてつくりたい世界」「企業研究者としてありたい姿」が言語化されていきます。 

そして最後のセッションでは、言語化した内容をマイソーシャルミッションとして発表していきました。

参加者は、事後セッションまでマイソーシャルミッションの実現に向けたアクションプランを考えていきました。 

全員が車座になり、感じたことを共有して現地訪問を締めくくった

 社内リーダーのさらなる刺激で、志を灯し続ける

現地訪問から1ヶ月後に実施した振り返りセッションでは、日立(研開)の統括本部長2名を迎えた対話を実施しました。 

お二人は事業部やイノベーションの実務など研究職以外でも経験を積み、そのなかで様々な挑戦をしてきました。

そんなお二人は自身の経験をもとに参加者へメッセージを投げかけていきます。

”これをやる”と決めたら周囲に宣言するのが大切。広まっていくことで、応援者が出てくる
・組織のなかで物事を進めていく時、弱者を出してはいけない
・異なる意見が出た時は、最大公約数ではなく最大公倍数をめざす

 壁を乗り越えながら同社に変化を生み出してきた統括本部長との対話を経て、参加者からは 
「自分の研究分野の事業が縮小しているなか、次への一歩を後押ししてもらえた感覚になった」「自分の実現したいことを社内で進める具体的なイメージを持てた」 などの声が聞こえ、さらに奮い立たされた様子でした。

 振り返りセッションを経て、参加者は「企業研究者として、リードしてつくりたい世界」「企業研究者としてありたい姿」の実現に向けた一歩目の行動を宣言していきました。

 女川での2日間で社会課題の現場を体感し、自身の志を見つめ直していった参加者たち。プログラム実施後には、以下のような声が聞こえてきました。

 ・どのような業務も必ず社会課題の解決につながることが認識でき、サステナビリティへの意識が上がった

・参加前は社会課題との距離を感じていたが、今は身近にある社会課題にも気付けるようになった。既存事業や研究の枠にとらわれず、広い視野で社会課題を考えてみようと思う

・様々な方のお話を聞き、他人を巻き込んで事業を進めるための考え方や行動の起こし方のヒントを多くいただけた。これから勇気をもって自ら提案をしていきたい

 社会を動かすリーダーの旅路は始まったばかり

今回のプログラムでは、事前セッション、現地訪問、振り返りセッションを通じて、参加者が自分なりの志を見つけていく道のりが印象的でした。

また、女川町で活動するリーダーからのお話は私自身も心が揺さぶられ、刺激をいただくものでした。 女川町で感じ、考えたことをマイソーシャルミッションとして自身の言葉で表していった参加者たち。彼らの挑戦は始まったばかりです。そんな彼らが作り出す社会はいったいどのようなものなのか、わくわくせずにはいられません。

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社会課題体感フィールドスタディでは、社会課題の現場への越境を通じて、一人ひとりの志の発見を後押ししています。プログラムの詳細は以下よりご覧ください。