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SRIとは? ESG投資やCSRとの関係を理解しよう

これまで企業への投資は、企業の財務指標を活用し、財務状況や業績を把握しながら行われてきました。しかしいま、環境汚染や労働環境など、財務指標だけでは把握できない問題が企業の価値に影響を与えることが多くなってきました。

そんななか注目を集めるSRIとはどのようなものでしょうか。企業が社会活動を行う上での理念であるSRIについて、基本からESGやCSRとの違いもあわせて紹介します。

SRI=社会的責任投資とは

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SRI「Socially Responsible Investment」の頭文字を取った言葉。日本語では「社会的責任投資」と訳されます。

従来、投資家は企業の成長性や財務的な側面を基準に投資先を選定して決定していました。一方、SRIは投資先の企業が社会的・倫理的な面を重視して社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たしているか?も考慮し、投資先を選ぶ手法です。

以下でSRIの歴史と拡大の背景を確認しましょう。

■100年近い歴史を持つSRI

SRI(社会的責任投資)は、100年ほどの歴史を持つ投資の考え方で、始まりは1920年代のアメリカです。当時キリスト教の教会が資産運用をする際に、武器、ギャンブル、たばこ、アルコールなど、キリスト教の教えに反する内容の業種を投資対象から外すという、いわゆるネガティブ・スクリーニングでした。

これがSRIのはじまりといわれており、その後欧米を中心として世界へ広がっていきます。1960〜80年代にかけてアメリカではベトナム戦争におけるナパーム弾や枯れ葉剤の製造企業の倫理観が問題視されたり、南アフリカ共和国でのアパルトヘイト政策への問題意識の高まりから同国へ進出している企業に対して株主から反対運動が起きる事態へと発展したりしました。

1990年代に入り環境問題への意識の高まりを受け、環境や社会問題に配慮した企業へ投資するという考え方が広まりました。いわゆるこのポジティブ・スクリーニングが、現在につながっています。

日本でのSRIの歴史

日本においてSRIの概念に相当する活動は、1989年の福島第二原発3号機で起きた事故を契機とする脱原発を理念に掲げた株主運動がはじまりといわれています。

1996年にISO14001(環境マネジメントに対する国際的な認証)が発効されたことで環境情報を発信する企業が増大。これを契機として1999年にSRIが本格的な動きを見せはじめました。

具体的には評価の視点を環境問題に絞り込んだ「日興エコファンド」や環境問題だけでなく、消費者対応、雇用、社会貢献も項目に盛り込んだ本格的なSRIの投資信託の登場によって加速的に認知されるようになりました。

SRIが広まった背景

アメリカをはじめとする世界や日本において、ネガティブ・スクリーニングの考え方からはじまったSRIですが、1990年以降、オゾン層破壊などの環境問題を発端に「社会全体で考えなければならない課題」を注視する投資の流れが生まれてきました。

2000年代になるとSRIの考え方が急激に広まりを見せます。起点となったのは、2006年に国連が世界中の機関投資家に対してPRI(責任投資原則)を提唱したこと。その後、さらに進む環境問題の深刻化、サプライチェーン労働環境の問題、大企業による不祥事で世界規模の市場混乱など、社会的な配慮に欠ける企業が起こす数々の問題を解決するためにSRIがもつ理念の大切さが再認識され、広まりました。

現在では、環境保護、労働環境改善、企業統治などを積極的取り組む企業へ投資するポジティブ・スクリーニングへと変化を遂げています。

SRIとESG、CRSの関係性

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SRIとともに注目を集めるものに「ESG」があります。Environment、Social、Governanceの頭文字をとったもので、国連が提唱する機関投資家向けの「PRI(責任投資原則)」の投資の考え方です。

また、CSRも脚光を浴びています。Corporate Social Responsibilityを略した言葉で企業が組織活動をするうえで必要となる社会的責任です。

ここからはSRIとESG、CSRの違いや関係性を紹介します。

SRIとESGの違い

SRIは社会的責任が果たせない企業をネガティブ・スクリーニングすることから始まり、社会的責任を全うしようとする企業へ積極的に投資するポジティブ・スクリーニングの概念も含めて成長してきました。考え方の基本は「倫理」です。

ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(ガバナンス Governance)の頭文字を取った投資行動の「基準」です。PRIによって環境、社会、ガバナンスに積極的企業へ投資を働きかけるという明確な目標が定められています。

SRIは「理念」という大きな枠組みを持ちながら、現在は環境・社会・ガバナンスという社会全体を注視しています。SRIはESG視点となる投資の側面があり、基本的にはESGと近い関係です。

ESG投資という言葉が生まれる以前のSRI投資だった時代には、SRIの対象となる企業はネガティブであれ、ポジティブであれ、望ましくない・望ましいと思われる一部の企業を対象としていました。

ESGは国連のフレームワークであるPRIによって明確に目的が定められたこともあり、全ての投資対象を考慮しなければならない投資の手段。対象とする企業の範囲の差が従来のSRIとESGの違いでしたが、現在はその境界線は曖昧になってきているといえるでしょう。

SRIとCSRの違い

CSRとは「Corporate Social Responsibility」の頭文字を取った言葉で「企業の社会的責任」を意味します。「社会的責任」とは、社員や消費者・投資家などのステークホルダー、環境への配慮・社会貢献に至るまでの広い範囲で適切な意志決定を行うことを指しています。この責任を企業が担う点にCSRの最大の目的があります。

一方、SRIは「社会的責任投資」であり、投資家が社会的責任を全うする企業に対して投資を行う概念。共通する部分は環境問題、社会問題、ガバナンスを経営ビジョンに盛り込み、社会に対して責任をもって行動することにありますが、それぞれSRIが投資家視点、CSRが企業視点である部分に違いがあります

SRIが持つ社会的責任に対して人事ができること

人事部が人材戦略において、SRIが持つ社会的責任を組み込むにはどのような配慮が必要でしょうか。4つの観点を中心に紹介します。

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人事ができる4つのこと

人材領域において、SRIの理念をベースとした活動には、多様性の推進、労働環境の安全確保、モチベーションやエンゲージメントの向上、広く活動を情報開示する姿勢が必要になってきます。

どれも人事部では重要項目として日頃から注力しているものではないでしょうか。どのようにSRIと絡めて取り組めるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

多様性を推進

グローバリズム、少子高齢化が進んでいること、さまざまな価値観が広がりを見せていることを背景に性別、国籍、人種、年齢、宗教、学歴、職歴などによって格差や不公平感を生まない社会作り、企業作りが求められてきています。

日本で重視されていることは女性管理職の積極登用や障がい者雇用の拡充、柔軟なワークスタイルの確立です。まさに人事部の領域であり、ESG経営における重要課題のひとつとなる業務といえるでしょう。

安全な労働環境の構築

社員の安全を確保する労働安全衛生面では、けがの防止や疾病予防など従業員の健康や安全を確保できる職場づくりが求められます。メンタルヘルスの相談窓口や、身体のリラックス促すケアルームを設置するなど、人事が積極的に進めていける分野です。

行動指針を定めるだけにとどまらず、安全な労働環境を遂行できる組織作りや人事制度の拡充も重要なポイントになります。

モチベーションが高まる職場作り

働きがいと同時に、モチベーションやエンゲージメントといった価値観が重要視されています。モチベーションを高めるための人材育成は、スタッフのスキルを判断し、個々に最適な育成カリキュラムの作成が必要でしょう。

海外投資家ではESG項目として、OJT研修はもちろん、座学やeラーニングなどのOff‐JTに対する取り組みを評価指標にするケースも。スタッフに人材育成の環境を提供できるかは人事担当者の使命ともいえるでしょう。

人的資本情報の積極的な開示

これまでご紹介してきた、多様性の推進、安全な労働環境の構築、モチベーションが高まる職場作りは人事担当者にとって目新しいものではないはず。重要なことはそれぞれの項目で目標を掲げて、その達成度を広く情報開示することです。

特にISOが人事領域に関して「社内で議論すべき・社外へ公開すべき」指標をガイドラインとして整理した「ISO30414」を公開したことを受け、これからの世界標準として証券市場でも活用されると考えられています。

人的資本の情報開示は、企業価値に直接的に連動する人事の担当領域になってくるでしょう。

選ばれる企業であるためにSRIを人事から推進しよう

古い歴史を持つSRIは、時代の変遷とともに変化する社会課題を解決するために存在していきました。そのため、SRIの考え方自体も変化しています。

環境問題やグローバリズムなどによってさまざまな社会問題が複雑化している現代。企業が社会で活動するうえで欠かす事ができない倫理観、いわゆるESG投資の観点がSRIに求められています。

SRIの倫理観とESGの各目標をしっかり把握して、企業価値を向上するために人事部にできることを的確に推進してきましょう。

NPO法人クロスフィールズは、社会課題の現場と企業で働く人をつなぐさまざまな事業を行っています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。

SRIを踏まえたESG経営・投資の解説記事も公開しています。ぜひ参考にしてください。


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