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経産省も注目の越境学習とは?重要性が高まる背景や最新の研究もお伝えします!

人材育成の文脈で、「越境学習」という言葉を目にする機会が増えてきています。経済産業省もVUCA時代の企業人材育成として注目する越境学習。今回は言葉の定義や社会的に注目されている背景、経済産業省の実証実験やアカデミアによる研究についてご紹介します。

越境学習とはなにか

越境学習の定義

越境学習という言葉は近年、日本の人材育成のシーンで生まれたと言われています。そもそも「越境」とは「境界を超える」という意味があり、越境学習はこれを人材育成の領域に広げて「自身の慣れ親しんできた境界を超え、新しい環境で挑戦することで学びを深め、成長すること」などの意味で使用されています。

越境学習に関する研究の第一人者・法政大学大学院の石山恒貴氏は、越境学習を「個人にとってのホームとアウェイの間にある境界を超えることによる学び」とも定義しています。

これまで慣れ親しんできた心地の良いホームから、これまでの経験や価値観が通用しないアウェイに飛び込み、試行錯誤するなかで成長する。そしてさらにアウェイでの経験をホームに持ち帰る、というホームとアウェイの往来が越境学習の特徴でもあるのです。(参照元:『越境学習入門』日本能率協会マネジメントセンター、2022年)

越境学習が注目される背景 

なぜいま、越境学習への注目が高まっているのでしょうか。その理由として、企業の存続には”自律型人材”が重要だといわれていることがあげられます。

自律型人材とは揺るぎない価値観や自分の「軸」をもち、それを指針として考えて行動できる人材です。(自律型人材について詳しくはこちらで解説しています)

コロナ禍で鮮明になったように、現代は社会変化が予測困難なVUCAの時代です。また、テクノロジーの進化や急激なグローバリゼーションによって、企業には計画重視の経営よりもトライ&エラーを繰り返して柔軟に変化できることが求められてきました。

その結果として集団で効率的に動くという従来の働き方ではなく、小さなチームで素早く判断し、行動するという働き方に変化してきました。
そのため、これまでは一人ひとりが決められた方針を達成するための効率性が求められていました。しかし現在は正解がわからない状況でも自身で決断して行動できるリーダーシップが、一人ひとりの社員に求められているのです。

自分らしいリーダーシップを発揮できる”自律型人材”を育むには、新しい環境で自身の強みを活かして適合したり、大切にしている価値観に気づいたりする機会が豊富にある越境学習が最適だといわれています。

経産省による実証実験とその効果


こうした社会変化も受け、経済産業省では人材育成事業を加速してきました。その一環として越境学習に着目。以下では2018年〜2020年に実施した実証実験や、経済産業省が唱える「越境学習に重要な3つの要素」についてご紹介します。

実証実験で越境学習の効果を確認

経済産業省は「未来の教室」事業のなかで企業リーダー育成につながるリカレント教育プログラムの開発と実証に取り組んできました。その一環として、2018年から2年にわたって越境学習の効果検証を実施しました。
これは「企業人材が社会課題に取り組む地方やNPOの現場に赴き、現実の社会課題解決に取り組むことで人材が育成される」という仮説のもと行われました。その結果、検証対象となった越境学習プログラムの参加者は、総じて自身の価値観を見つめ直し、リーダーとして成長を実感したことが判明。

この結果を受け、経産省は「越境学習には知の探索によるイノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待できる」とコメントしています。

経済産業省による「越境学習に重要な要素」 

実証実験を通して、経済産業省は越境学習に重要な要素は「社会課題の現場」「摩擦」「多様なステークホルダー」の3つだとしています。
それぞれ、以下のように定義されています。

社会課題の現場:ビジネスパーソンにとって日々のビジネスの現場を離れ、社会課題に取り組む地方やNPOの現場に越境することで、異なる価値観やスピード感等の非日常体験を得られる。
 
摩擦:社会課題の現場に対して価値提供をしようとする際に「摩擦」が生じ、課題設定や自分の価値観を問い直す内省が促進される。摩擦は、社会課題の現場の人々や他の受講者とのぶつかり合い、伴走者からの問いかけ、自分の中での葛藤によって生じ、この過程を経ることで自分自身の軸を明確にすることができる。

多様なステークホルダー:良質な越境学習の場としての社会課題の現場には、課題に取り組むリーダーや伴走者が存在する。これらの多様なステークホルダーの情熱に触れることで志が磨かれる。

引用元:https://www.learning-innovation.go.jp/recurrent/

年代別・越境学習プログラムの種類

経済産業省は越境学習のモデルプログラムとして、年代別に以下のプログラムを紹介しています。

若手向け:留職プログラム

若手〜中堅社員向けとして、留職プログラムがあげられています。これはビジネスパーソンが新興国のNPOや社会的企業に飛び込み、現地の社会課題の解決に挑むプログラムです。参加者は普段とは異なる環境に飛び込み、志の高い現地のリーダーと課題解決に取り組みます。(留職プログラムの詳細はこちら

中堅向け:チェンジ・メイカー育成プログラム

中堅社員向けとしては立命館大学が提供する「チェンジ・メイカー育成プログラム」などがあげられています。これは受講生が複数名でチームを組み、社会課題の現場でのフィールドワークを行いながら全体セッション外にチームごとで行う調査・検討を通して、課題設定と解決策提案を行なうプログラムです。

経営幹部向け:社会課題体感フィールドスタディ

経営幹部向けとしては社会課題体感フィールドスタディなどが紹介されています。これは国内外の社会課題の現場を「体感」するとともに、困難な課題に立ち向かうリーダーの活動と志から刺激を受けるものです。社会課題を体感し、志高いリーダーとの対話を通じた深い内省を行い、社会や企業に対する鋭い感性と自分自身のぶれない軸を育んでいきます。(フィールドスタディの詳細はこちら

越境学習に関する研究や調査

人材育成における越境学習の効果は、経済産業省だけでなく研究対象としてアカデミアも注目しています。2022年には越境学習をテーマにした著書が広く販売されるなど、ますます注目が高まっているのです。以下では越境学習に関する研究や調査についてお伝えします。

法政大学大学院・石山恒貴氏による研究

石山氏はこれまで『越境学習入門』や『越境学習のメカニズム』など、越境学習に関する数多くの著書を執筆しており、越境学習の第一人者としても知られています。現在は法政大学大学院政策創造研究科教授を務める傍ら、外部機関と越境学習に関する研究調査も実施。2021年には経済産業省と共同でルーブリックを作成しました。これは企業が越境学習を導入するにあたっての留意・工夫すべき点や、実際に越境学習をする際に学びとなる要素をまとめ、評価指標として整理したものです。(ルーブリックはこちらからご覧いただけます)

立教大学・中原淳氏による研究 

人材開発や組織開発を専門とする中原氏は、著書『働く大人のための学びの教科書』にて越境学習を紹介しています。本著では「学ぶ、成長する、変わるのサイクルをまわせば人生は楽しい」という主張のもと、どうしたら最も効果的かつ継続して学び、変わり続けることができるかを研究しています。そのなかで「大人の学び」の行動の1つとして越境を紹介。慣れ親しんだ場所を離れ、これまでの自分が通用しない経験をすることが、学びの可能性を広げるとしています。

マクロミル社による大規模調査

民間の調査会社・マクロミルは、NPO法人クロスフィールズと共同で2019年に越境学習に関する大規模調査を実施しました。越境活動の経験者約1,800人を含む約4,000人を対象に、越境活動で得られるスキルの特徴や、マインドセットの変容タイプを詳細に分析しました。その結果、越境学習はよりリーダーシップや課題発見力、多様性の受容力が高いことが判明。特に留職プログラム参加者は、他の越境学習経験者よりもこれらのスキルを得たと回答しています。(調査結果の詳細はこちら)

経済産業省も注目の越境学習で自律型人材の育成へ

越境学習とは、自身の慣れ親しんできた境界を超え、新しい環境で挑戦することで学びを深め成長することを指します。経済産業省が越境学習が企業の人材育成として有効かを検証する実証事業を行うなど、近年はビジネスだけでなく政府からも注目が高まっています。

経済産業省の実証事業で示されたとおり、社会課題の現場に越境することは個人が価値観を見つめ直し、仕事の意義を見つけるきっかけにつながります。クロスフィールズでは留職プログラムや社会課題体感フィールドスタディなど、多様な越境学習プログラムを提供しています。詳しくは以下のwebサイトよりご覧ください。


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