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レバノンにシエラレオネ……ドコモ社員が社会課題の現場で出会った世界と拓けた視野

NTTドコモの張(ちゃん)さんは、2023年に留職(国内派遣)に参加し、NPO法人 アクセプト・インターナショナルにて1年にわたり活動しました。

テロや紛争のない世界の実現に向けて活動する国際NGOでレバノンやシエラレオネ等にも出張し、社会課題の現場を目の当たりにした張さん。「留職を通じて人として成長し、視野が広がった」と話します。

「人」に向き合いたいと国際NGOへ留職

――留職に参加したきっかけを教えてください
留職に参加したのは入社10年目の時でした。「何か新しい挑戦をしてみたい」と考えていたところ、社内で留職の公募があったので、すぐに手を挙げました。

これまで営業として経験を積んできましたが、一度全く異なる環境に飛び出し、ドコモの看板を外した自分の実力と価値を試したい。そしてグローバルな仕事に取り組みたい、という気持ちから留職に参加しました。

なので正直「社会課題解決に取り組みたい」とはあまり思っておらず、社会課題解決は一部の人がやっていること、というイメージを持っていました。しかし留職では正面から社会課題と向き合って自身の価値観が変わり、人として成長できたと感じています。

――一留職先はNPO法人アクセプト・インターナショナル(以下、アクセプト)でした。なぜアクセプトを希望したのでしょうか?

人と向き合うことで自分も成長したいという気持ちから、「留職先は人と向き合える団体がいい」と考えていました。派遣前の面談でいくつか候補団体を提示された時に、数ある社会課題の中でもど真ん中の“人”を対象に事業を行っているアクセプトを知り、ここだ!と思ったんです。その後、アクセプトとの面接を経て無事に派遣が決定しました。

アクセプトはテロや紛争のない世界の実現に向けて活動する国際NGOです。紛争によって加害者になってしまった人々を受け入れて、彼らが武器を置いて社会で生きていけるようにサポートしたり、テロ組織などの武装勢力にいる若者が組織を抜け出すための取り組みや啓蒙活動を行ったりしています。日本国内でも若者や在日外国人の支援を行うなど、まさに「人と向き合う団体」でした。

レバノン、フィリピン、シエラレオネで対話を重ねる

――特に印象的だった業務について教えてください。
アクセプトで私が主に担当した業務は、国際規範の制定に向けた証言収集やシンポジウム開催、在日外国人支援事業、ファンドレイジングなどでした。

そのなかで印象的だった業務の1つが国際規範の制定に向けた取り組みです。アクセプトでは、テロ組織などの武装勢力に関わらざるを得なかった若者を国際的に保護する枠組みの創出を目指しています。「2031年までに彼らの教育や保護を実現する国際規範を制定し、すべての若者が暴力から解き放たれる道を創る」ことを目指して、国際機関への働きかけを行っています。

私は国際規範制定に向けた元当事者のリアルな証言の収集活動の一環として、レバノン、フィリピン、シエラレオネに出張し、いわゆるテロリストとして内戦や武力活動に参加していた元少年兵/元兵士の方々にヒアリングを実施しました。

シエラレオネで活動する張さん(本人・写真右)

レバノンで出会った1名の元兵士は、「自分は小さい頃から教育を受けず、代わりに戦闘方法などを教えられてきた。だから自分が戦地に行き、相手に銃を向けることは当然だと思っていた」と話してくれました。

このとき、衝撃と同時に、大人が生み出した争いに子供が巻き込まれている構図に行き場のない怒りを感じたことを覚えています。

このような対話をおよそ70名と重ねるなかで、生まれた環境や教育によって人の運命が左右されるのだと実感し、「自分はこの現状に対して何ができるのか」という意識を持つようになりました。

当事者の方々との対話は、アクセプトの活動の意義を実感する機会にもなりました。フィリピンで出会った元テロリストの方は「海外の方が関心を持ち、自分の声を代わりに発信してくれることが本当にありがたい」と話してくれました。彼らのような当事者の声を聞いて世界に発信し、国際的な枠組みにしていくことは、アクセプトのような団体だからこそできるのだ、と実感しました。

フィリピンでヒアリングを重ねる張さん(本人・写真右)

リーダーとしてプロジェクトを担当。そこで見た「忘れられない風景」


――留職中、一番の挑戦は何でしたか?

NYで開催した国際規範の制定に関わるシンポジウムです。自分はプロジェクトのリーダーとして、アクセプトのメンバーと5ヶ月にわたる準備を行いました。直前まで予期せぬトラブルがあったり、当日も想定外のことが起こったり……。反省点もありますが、とにかく無事に終えることができました。

やりきれた理由の1つに、「アクセプトのメンバーとして、絶対に結果を出す」という覚悟がありました。留職開始からしばらく経った頃、「自分がアクセプトのメンバーとしてやっと認めてもらえた」と思えた瞬間があったんですよね。何か特別な言葉を投げかけられたわけではなかったのですが、ようやく本当の意味での仲間として認めてもらえた気がしました。

留職では必ず成果を残す気持ちで活動していましたが、この時からさらにアクセルが入り、どんなに難しい状況でもやり切ることができたと感じています。

NYでアクセプトメンバーと(本人・写真左)

――留職で忘れられない光景を教えてください。

在日外国人支援事業の一環として、佐賀で在日ムスリムの方々と地元住民の交流イベントを企画・実施したことです。佐賀にはモスクがなく、ムスリムの方々が集える場所があまりなかったこともあり、地域の方々と交流できる居場所づくりをしたいと思って企画しました。アクセプトが佐賀に事務所を開設するタイミングだったので、団体としても佐賀での交流イベントは初の試みでした。

イベントはインターンやボランティアの方々を巻き込みながら企画を進めました。「果たしてうまくいくのだろうか」「参加者は集まるだろうか」という不安は大きかったのですが、当日は100名以上が参加してくれました。

ムスリムの方々と地元の人々がつながって、とても楽しそうに交流する様子は、今でも忘れられないですね。あるムスリムの方は「これまで日本人と話す機会がなく、”怖い”と思われている気がしていた。でも地元の人とつながり、自分たちは怖くないのだと伝わった。本当にイベントがあってよかった」と言ってくれたんです。

自分が行動したからこのような時間や出会いを作れたと思い、本当にいい活動ができたな……とやりきれた気持ちになりました。

佐賀でのイベントの様子(本人・写真左)

留職を通じて広がった視野と見つけたリーダーシップ

――留職を通じて、自身にどのような変化が生まれましたか?

まず、視野を広くもって仕事に取り組むようになりました。留職前は「会社として求められている数値目標を到達する」と、目の前の仕事と数字に囚われがちでした。

でもアクセプトではメンバーが「自分の仕事の先にはミッションの達成がある」と、目の前だけではなく長期的な視点と使命感を持ってひたむきに行動していました。彼らと一緒に働いたり、クロスフィールズさんとの1on1で「自分の業務がどのような社会課題の解決につながるか」と内省したりすることで、どんどん視野が広がりました。

今は目の前の短期的な成果に囚われるのではなく、数十年先の次世代や、あるいは世界の人々など長期的かつ広い視点でも「これは何のための仕事なのか」と考えながら仕事に向き合っています。この意識はずっと持ち続けていきたいです。

現地の方々との協働を通じて視野が広まった(本人・写真左)

自分自身のリーダーシップにも変化がありました。これまで、リーダーシップはメンバーを「感情」で引っ張るものというイメージでした。でも今は感情も大切にしつつ、ビジョンを描いて様々なバックグラウンドの人を巻き込むことが自分の大切にしたいリーダーシップだと考えています。 

アクセプトが取り組む課題は非常に複雑で、解決の糸口は1つではないことが往々にしてあります。事業に関わる人々は多様な文化的背景を持っており、彼らの価値観を汲んだり、背景にも目を向けたりして物事を進める必要がありました。

このような環境で業務を進めるうちに、自分の描くビジョンを相手に共感してもらい、彼らを巻き込んでいくことで、物事を前進させられると実感しました。この経験は「今後も色々な人を巻き込みながら、前例がないことに挑戦して成果を出せる」という自信になっています。

留職は「人として成長できる経験」

――今後、取り組みたいことを教えてください。

留職では元兵士の方々から壮絶な話を聞いたり、ビジョン達成に向けて全力なNGOのメンバーと一緒に働いたり、本当に多くの人との出会いに恵まれました。様々な人と出会うなかで「今度は自分が誰かの可能性を広げて、挑戦を応援する立場になりたい」という気持ちが強くなり、留職後は希望した総務人事部に配属されました。

総務人事部でこれから取り組みたいことは、より多くの社員に越境する機会を提供することです。私自身、留職で社外に越境して初めて「自分が生きていた世界は小さい」と実感し、俯瞰して自分の仕事を捉え、本当に自分はどうありたいのか考えることができました。

自分がそうだったからこそ、「会社ではうまく行っているけど本当にこれでいいのだろうか?」とモヤモヤしている人や、逆に「社内で平穏に過ごせればそれでいい」と思っている人に越境する機会を提供して、外の世界がいかに広いか実感し、自分の可能性や選択肢を広げていってほしいです。

――最後に、留職を一言で表してください!

「人として成長できる経験」ですね。アクセプトはスポットライトが当たらない人々を想い、彼らと人としてつながり、社会を変えていく事業を展開していました。アクセプトの事業に関わるなかで必然的に「自分自身は人としてどうありたいか」問われ、それを考え抜き、人として成長できた1年でもありました。

自分自身は、どうありたいのか……。この問いを考えるとき、アクセプト代表の永井さんの「一瞬一瞬を最大火力で生きていたら、少しずつ動かせる人や出来る事が増えて、前に進んで来れた」という言葉が思い浮かびます。一生懸命生きていくことで、社会は変えられる。この気持ちを忘れずに、日々を全力で過ごしていきたいです。

アクセプトインターナショナル代表・永井さんのメッセージ

(永井さん本人:写真左から2番目)

張さんは留職期間を通じてもはや私たちのコアメンバーとして様々なことにチャレンジしてくれました。物怖じせず、共に困難を乗り越えていくというメンタリティがとても頼もしかったです。

また、やはりビジネスセクターからやってきたからこそ、紛争解決・平和構築の専門組織である私たちにとっては新鮮な視座をいくつももたらしてくれたとも思います。ベンチャー気質の組織においてそうしたことは意外にも重要なものなのだなと勉強にもなりました。

同時に、難しい問題の解決に向き合い続ける私たちと過ごしたからこそ、張さんがこれから会社や社会の中でインパクトを生み出すことができることもあると信じています。近い将来、近況報告しあうのがとても楽しみです。

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留職プログラムについては以下よりご覧ください。

ドコモ人事部のインタビューは以下よりご覧いただけます。