サステナビリティ研修の効果的な設計と企業事例をお伝え
企業を取り巻く環境が常に変化するなか、積極的に社会課題や環境問題に取り組み、新たな企業価値を生み続ける努力が必要とされています。なかでも、サステナビリティ経営への取り組みとして多くの企業が変革に向けた新たな方針を立てる動きが最近ではよく見られます。
こうした背景の元、サステナビリティ研修のニーズが高まっています。そこで本記事ではサステナビリティ研修の背景にあるサステナビリティ経営や効果的なサステナビリティ研修の設計について説明し、実際に企業で導入されている研修の事例もご紹介します。
サステナビリティ経営の推進に向けた研修とは
サステナビリティ研修の前提「サステナビリティ経営」
サステナビリティ研修の前提として重要な概念が「サステナビリティ経営」です。サステナビリティ経営とは、長期的に利益を出し続けるために重要な考え方で、「環境・社会を考慮しながらも、自社の経済発展を相反せずに両立させるもの」とされています。
「サステナビリティとは?」の記事では、サステナビリティ経営を実現するための手順が紹介されています。要約すると、サステナビリティ経営を推進するためには、自社が社会から求められている長期的な役割を捉えた上で、自社のあるべき・ありたい姿を描くことが重要です。
また、実践に落とし込むために社員のサステナビリティ経営についての理解促進と意識向上が求められてきます。つまり、サステナビリティ経営の実現に向けてサステナビリティ研修を実施することは有効だといえるでしょう。
サステナビリティ経営に関わるステークホルダー
サステナビリティ経営は、「サステナビリティ推進担当者」だけでなく、組織全体として取り組むことが重要です。全ての役職・部署が関わることで、個人の意識に変化が生まれ、やがてサステナビリティ経営の実現へとつながっていきます。
サステナビリティ経営を考えるうえで、事業に関わる取引先や関連企業を含むあらゆる関係者もその一部と捉えることも重要です。
サステナビリティ経営の推進に重要な研修
サステナビリティ経営の方針を定める企業が増えてきている一方で、実装に向けた課題に直面している組織も見られます。直面しやすい課題の一つが「人材育成」です。社会と組織を長期的に支えるサステナビリティ経営の実現には、それに対して十分な知識と実行力を備えた人材が必要です。各社はこうした人材の獲得・育成の課題に直面しています。
サステナビリティ研修の役割
こうした人材育成の課題を解決する一つの手段が「研修」です。研修が果たす役割を一言で言えば、「計画を実装する人材と組織を創ること」だと言えます。サステナビリティ研修は社員がサステナビリティそのものの意味を理解して、実装に向き合う意識を浸透させる役割を担います。その結果、組織が長期的な価値創造を続けることにつながることが期待できるでしょう。
サステナビリティ研修はその内容や目的によって異なる効果を発揮します。例えば、以下のような点が挙げられます。
効果的なサステナビリティ研修設計
サステナビリティ研修の目的と内容
今回は、「社内の一般社員」を対象としたサステナビリティ研修だと仮定とし、研修の目的を以下のの3つとします。
①サステナビリティ経営の基礎理解
②自社事業とサステナビリティ経営方針の接続
③社員自身の業務とサステナビリティ経営方針の接続
そのうえで、サステナビリティ研修の内容を設計していきます。ここでは研修の目的を「基礎知識の提供」「自社事業および社員自身の業務とサステナビリティ経営の接続」として考えていきます。
① 基礎知識
まず「サステナビリティ経営とは何か」をテーマに環境、社会、経済の関係について受講者が理解を深めることが重要です。その際にサステナビリティの概念を理解するだけでなく、サステナビリティと深く関わる社会課題の理解や現場の様子なども知ってもらうことが大切です。また、社会課題とビジネスの関係性についても理解を深めてもらうことで、自社事業や自身の業務とサステナビリティ経営を結びつけることにつながるでしょう。
②自社事業とサステナビリティ経営方針の接続
サステナビリティ研修において、特に自社事業に関係する社会課題やテーマを取り上げることで、受講者の中で当事者意識を育むことができます。たとえば、企業が設定する重要課題(マテリアルティ)に関わるテーマをサステナビリティ研修で用いることで、自社の取り組みやビジョン、長期経営計画への理解が受講者に深まることを期待できます。
③社員自身の業務とサステナビリティ経営方針の接続
サステナビリティ研修で取り上げる社会課題は規模が大きく、日常業務との距離が感じられるという声が挙がることもありえるでしょう。
しかしサステナビリティ経営の実現において重要なことは、社員一人ひとりがサステナビリティや社会課題を「自分事」だと認識し、日常業務において小さな行動を起こしていくことです。つまり社会課題の現場に直接的な支援をせずとも、自身の仕事や身の回りから変化を起こすことができる、という意識を醸成していくことが大切です。そのためサステナビリティ研修では、社会課題に取り組む現場の人の視点を知る機会を取り入れたり、社会課題をミクロな視点から理解して環境や社会課題に関わる当事者の視点で考えたりするきっかけを提供することが効果的でしょう。
サステナビリティ研修の手法
通常の研修は座学とワークショップの主に2パターンあります。座学の場合はサステナビリティの基礎知識を深めるのに有効でしょう。一方でワークショップでは、知識の習得を経て計画を立案したり、理解を促進する場合に有効だとされています。
サステナビリティ研修において、座学・ワークショップどちらも効果的ですが、その前提として「社会課題の現場を体感し、当事者への共感を通じて、サステナビリティを自分事化する」ことが最も重要だといえるでしょう。
たとえばフィールドスタディなどで社会課題の現地に訪問したり、オンライン映像を視聴したりすることで社会課題への理解が深まっていきます。その際に自身が感じたことなどを周囲と共有していくことは、さらに思考を深めることに効果的でしょう。フィールドスタディの詳細は以下をご覧ください。
サステナビリティ研修を取り入れる企業事例
ここではサステナビリティ研修を取り入れている企業の事例を紹介します。
三井物産株式会社
三井物産は、社員向けにサステナビリティに対する意識浸透プログラムを展開しています。その一環として、クロスフィールズの「共感VRプログラム」を活用したサステナビリティ研修を実施。原料のサプライチェーンをテーマとした内容で、同社の単体社員を中⼼に国内外で4,000⼈以上が受講しました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
※共感VRプログラムとは、VR/360度映像などを用いて社会課題の現場を疑似体験する機会を提供し、社会課題の自分事化を促進するものです。詳細は以下をご覧ください。
PwC合同会社
PwCはサステナビリティに関する研修や勉強会の実施を、社内外に向けて支援しています。トップ層が掲げる取り組み方針に基づき、社員の行動変容を起こすために、企業のあらゆる階層でサステナビリティに関する理解を深め、その取り組みを加速させていく狙いを持っています。その一環として、ある組織に対してはグループ役員を対象に「サステナビリティ・ファイナンス」をテーマに講義を実施、その後事業のフロントを担う担当者を対象に別の講義を実施しました。サステナビリティのメガトレンドやステークホルダーの動向から始まり、サステナビリティ先進企業事例など、目的に応じたアジェンダを構成しています。
ライオン株式会社
ライオンでは、サステナビリティ活動についての体験学習として首都圏にある森林の整備活動を行っていましたが、コロナ禍をきっかけに都内近郊で川整備に取り組む組織と共同してオンラインでの研修に切り替えました。グループ会社の約96名の社員が参加し、SDGsや環境問題の現状などの解説を受けました。また、研修の意義や「あなたにとって仕事とは?」などの質問も投げかけたりしながら、自分で考え、他参加者とディスカッションも行う内容を実施しました。
サステナビリティ研修は一人ひとりの自分事化がポイント
サステナビリティ研修を通じて、サステナビリティ経営を組織全体に浸透させ、社員一人ひとりが当事者意識を持って推進することにつながります。
手法は様々あり、日本でも大手企業がサステナビリティ研修に取り組んでいますが、特に重要なポイントは「社会課題の現場を体感し、社員一人ひとりがサステナビリティを自分事としてとらえる」ことです。サステナビリティや社会課題を自分事としてとらえ、日々の業務で小さな実践を重ねることで、組織全体の風土醸成につながるでしょう。
NPO法人クロスフィールズは、さまざまな目的と階層を対象としたサステナビリティ経営の推進につながる事業を複数展開しています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。