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「マテリアリティ」とは何?意味や企業事例をまとめて紹介!

近年、企業のサステナビリティレポートや事業戦略のなかでマテリアリティという言葉がよく使われています。しかし実際にマテリアリティとは何か、どのように事業に取り入れるか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか?今回の記事ではマテリアリティとは何かを解説したうえで、マテリアリティが求められる理由、マテリアリティの特定方法、実際の企業による取り組み事例などもお伝えします。


マテリアリティとは

マテリアリティの定義

マテリアリティ(Materiality)とは、企業のサステナビリティの文脈において、企業が社会や環境に与える影響の中で、特に優先的に取り組むべき重要な課題や領域を指します。特定したマテリアリティに基づいて課題解決に向けた取り組みを行うとともに、ステークホルダーに公開する企業が増えてきています。

ビジネスにおけるマテリアリティの使われ方

マテリアリティは、「材料」や「素材」の意味を持つ「material(マテリアル)」が語源となっています。もとはこの語源のように企業の業績を判断するための「材料」として、財務報告のなかで企業の財務に影響を及ぼす重要な要因を示した情報に対して使用されていました。

しかし近年、投資家を中心に企業の価値を判断する際の軸として非財務情報も重要視されるようになったことを背景に、マテリアリティは財務的なものだけでなく、「社会課題の解決」「サステナブルな発展」「ステークホルダーに与える影響」など非財務的な影響も鑑みた重要な課題や領域という意味で用いられるようになっています。

マテリアリティが求められるようになった経緯

ビジネスで現在のマテリアリティが求められるようになったのは、世界の潮流が背景にあります。ここでは2000年代からの潮流から、今マテリアリティが重要視される理由を紐解いていきます。

グローバルなサステナビリティ意識の高まり

2000年代初頭、環境問題や貧困、教育格差、ジェンダー問題など、さまざまな社会課題が顕在化してきました。企業は製品やサービスの創出、従業員の雇用など社会に大きな影響を与える存在である以上、利益を追求するだけでなく、いかにサステナブルに事業を成長させ社会に価値を創出できるか、社会課題の解決に貢献していくか、などの社会的責任も果たすべきであるという意識がより高まっていきました。

国際的なガイドラインの策定

2000年以降になると、国際機関が続々とサステナビリティ情報開示に関する指針を公開しました。

GRI(Global Reporting Initiative):2000年に包括的なサステナビリティ報告書のための世界的な枠組みを構築し、ガイドラインを発表

SASB(Sustainability Accounting Standards Board):2018年にESG情報開示の効率化・最適化を進めることを目的として、SASBスタンダードを発表

このように企業が報告するべき「重要なサステナビリティ情報」を定義する枠組みが提供されたことで、それらの基準を活用した情報公開を行いやすくなりました。

さらに2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、国際社会全体で取り組まなくてはならない課題として、経済・社会・環境という3つの側面全てに対して明確な目標が掲げられました。企業はSDGsを用いながら自社の取り組みを発信することで、国際社会の課題解決に対して具体的にどのような貢献をしているかを、明確にしやすくなりました。

投資家の判断基準の変化

このような国際的な意識の変化やガイドライン発表を背景に、投資家の非財務情報への関心も高まっていきました。サステナビリティの視点や社会課題の解決に向けた取り組みを進めていくことこそが長期的で安定した経営につながり、反対にそれらの非財務情報の開示がない企業はリスクがあると捉えられるようになったのです。

このような経緯から各企業においてマテリアリティは、仕方なく公表しなければいけないものではなく、戦略的に設定・開示するものとして取り扱われるようになってきています。

マテリアリティ特定のステップ

それでは各企業において、マテリアリティはどのように決めていくのでしょうか?

世界中にあるさまざまな社会課題は、どれも解決すべき重要なものですが、いざ自社事業と照らし合わせると、「どの課題に対してどのように動いていくと良いか」わからなくなってしまうのではないでしょうか?

まさにこの「どの課題に対してどのように動いていくと良いか」という具体的な方向性と優先順位を示すためのものがマテリアリティであり、だからこそマテリアリティの特定は重要なステップになります。

マテリアリティ特定、5つのステップ

マテリアリティの特定から運用までは大きく5つのステップに分けられます。
(今回紹介するのはあくまで1つの例です。実際にマテリアリティの特定を行う際には、他者のマテリアリティに関する情報を参考にしながら進めていくと良いでしょう)

1.課題のリストアップ

最初のステップは課題の洗い出しです。SDGs・GRIスタンダード・SASBスタンダードなどの国際的なガイドラインや、社会的なトレンドなどを参照しながら、課題をリストアップしましょう。

ここで大切なのは「自社に関連するあらゆるステークホルダーを認識・理解すること」と「バリューチェーン全体をカバーする広い視点で行うこと」です。ステークホルダーそれぞれが関心を寄せる課題を把握するために、アンケート調査や対話を通して意見を収集できると良いでしょう。

2.課題の重要度を評価

次に洗い出した課題に、優先順位をつけます。ここではマテリアリティマトリックスという2軸の図表を作成します。横軸に「自社事業にとっての重要度」、縦軸に「社会/ステークホルダーにとっての重要度」をおき、課題をマッピングしていきます。

「自社事業にとっての重要度」はMission/Vision/Valueや中長期的な計画、財務への影響度などを軸に考え、「社会/ステークホルダーにとっての重要度」は顧客、取引先、株主・投資家、従業員などのステークホルダーを定義し、それぞれへの影響を考えます。影響度の評価には5段階評価を用いて定量化しながらマッピングをする企業もあるようです。

3.マテリアリティの特定

マテリアリティマトリックスに基づいて、マテリアリティを特定します。「ここまでの評価プロセスや分析結果は妥当であったか」「特定された課題が本当に自社の理念や戦略と一致している内容なのか」等の観点で見直しながらマテリアリティを絞り込んでいきます。

このプロセスでは役員や社内外の専門家を巻き込み、意見を交換しあうことで、現状の課題に対する認識や自社の強み、取り組むべき今後の課題・目標などが定まっていきます。

4.事業戦略への取組

マテリアリティを特定したら、実際に課題解決に取り組めるように事業戦略へ落とし込んでいきます。具体的にどのような方針で、どのような取り組みをしていくのかを明確にすること、そしてそれらを推進する組織体制もあわせて検討しておくことが大切です。

5.定期的な見直しと更新

マテリアリティの特定は一度きりで終わりではありません。社会情勢や環境の変化や、国際的なガイドラインも改訂に応じて、定期的にマテリアリティの見直しと更新を行っていく必要があります。

以上がマテリアリティ特定の5つのステップです。

この5つのステップのなかでも特に重要なのは「3.マテリアリティの特定」と「4.事業戦略への取組」です。「3.マテリアリティの特定」で自社の方針とあまりに合わないものを選択してしまうと課題解決に向けて具体的な取り組みを進められないだけでなく、社員の理解を得るのも難しくなってしまいます。

また、社員がそれらの課題を理解し、日々の業務の中でどのように行動すべきかが明確になっていないと、マテリアリティに関する取り組みはただの表面的な活動に終わってしまいがちです。そのため、「4.事業戦略への取組」も重要です。経営層から現場の社員まで一貫した理解と行動がなければ、どれだけ優れた戦略でも目標達成は難しくなります。

しかし、現状は「マテリアリティは定められているが日常の仕事とかけ離れていると感じる」「実務に繋げていくのを難しい」と感じている方も多いのではないでしょうか。この課題の解決に向けた1つの手段として、社内に向けたマテリアリティの意識浸透プログラムが有効でしょう。

マテリアリティの意識浸透プログラム事例

ここでは、社内に向けたマテリアリティの意識浸透プログラムの実際の例を2つご紹介していきます。

トヨタ紡織

1つ目の事例はトヨタ紡織です。同社では各支部や部署で意識浸透の取り組みを行っていることが特徴です。

トヨタグループの一つであるトヨタ紡織は2019年から2020年にかけて全社をあげて 重要課題の特定に取り組み、マテリアリティを策定しました。同社は「マテリアリティを実現するためには、取り組みの主体である社員がその意味を理解し、自分事と して捉え、日々の業務に落とし込んでいくことが重要である」と考え、世界中の支部がそれぞれの地域にあった形で意識浸透の取り組みを行っています。

以下に各地域における取り組み事例を紹介します。

日本:「誰かじゃない、みんなで」をスローガンに「知る」「考える」「行動する」の 3ステップでの活動を計画。1年目は「知る」をテーマにマテリアリティ浸透策やSDGsへの取り組みなど、諸活動を計画・立案 するワーキンググループを発足し、ワーキングを複数回開催。新聞の発行と掲示、座談会の実施などに取り組んだ

中国:数ヶ月かけて、社会の持続可能な発展のために会社がどのような行動をすべきか、さらに個人の生活にどのようにつながるかを発信。その結果、一人一人が取り組んでいこうという意識が浸透し、約75%の社員が「私のマテリアリティ実施宣言」を提出してくれた

ヨーロッパ・アフリカ:「マテリアリティ月間」を設け、ワークショップを複数回開催やゲーム形式でマテリアリティ とSDGsについてのディスカッションを実施し、双方向で意見交換をすることで、個々がオーナーシップを持ち行動していく環境づくりをした

東急不動産

2つ目は自社の文脈にあったオリジナルコンテンツを作成し、全社展開した東急不動産の事例です。

東急不動産は、「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」という3 つのマテリアリティへの取り組みを推進しています。マテリアリティの意識浸透を行うための取り組みの一環として、クロスフィールズの「共感VR」を活用したオリジナルの対話型e-Learningプログラムを開発し、全社員に展開しました。

このプログラムは、マテリアリティのなかでも特に社員に意図を浸透させることが難しいと感じていた「循環型社会」をテーマに作成。実際のステークホルダーへのインタビュー映像や360度映像の視聴よるインプット、グループでの議論によるアウトプットを組み合わせた内容で、参加者からは「自社のマテリアリティの取り組みを自分事化しやすかった」という高評価が多く寄せられていました。(東急不動産の対話型e-Learningについて詳細はこちらからご覧いただけます)

どちらの例も社員にマテリアリティを理解してもらうだけでなく、社員が意見を発信することも行っていることが特徴として挙げられます。

伝えて、考えて、発信する、このステップを何度も繰り返しながら、全社で、地域/部所単位で、マテリアリティの意識浸透を行っていくことが有効でしょう。共感VRを活用した他社事例はこちらからご覧いただけます。

また、共感VR(対話型e-learning)の紹介動画は以下よりご覧ください。

まとめ

マテリアリティとは「企業が社会や環境に与える影響のなかで、特に優先的に取り組むべき重要な課題や領域」を意味します。マテリアリティを特定/開示し、その課題解決に取り組むことは企業の持つ社会的責任を果たすうえでも重要なことです。またマテリアリティの解決に取り組むには、社員一人一人が自社のマテリアリティを理解し、自分の役割や業務と繋げて考え、行動していくことが大切です。

まずは土台づくりの第一歩として、社内への意識浸透の取り組みから始めてはいかがでしょうか?

NPO法人クロスフィールズでは社員のマテリアリティの意識浸透を促進する「共感VR」プログラムなどを実施しています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてください。