PwCコンサルティングが本気で社会課題解決に取り組む理由とは?社会課題の原体験から生まれた組織変革に迫る!
PwCコンサルティング合同会社は、2017年に社会課題体感フィールドスタディ(以下、フィールドスタディ)への参加を皮切りに、様々な形でクロスフィールズと社会課題の解決に向けた連携を行ってきました。2024年にはクロスフィールズが同社より2名の出向者を受け入れるなど、ビジネスとソーシャルの連携は新たなフェーズに入っています。
今回は同社の常務執行役パートナー チーフ・インパクト・オフィサー(以下、CIMO)の宮城隆之氏と、クロスフィールズ代表・小沼がビジネスセクターとソーシャルセクターの協働で目指す社会課題の解決のあり方や、セクターを超えた協働を通じて生まれるインパクトなどについて語りました。
フィールドスタディで得た「左脳的な気づきと右脳的なスパーク」
小沼:宮城さんは2017-18年に南相馬や女川のフィールドスタディに参加されました。プログラム参加に至った背景や、特に印象的だったことを教えてください。
宮城:フィールドスタディに参加したのは公共事業部門のリーダーになった間もないタイミングでした。それまで様々な業種でコンサルティングを担当していましたが、色々な企業経営者と接するなかで彼らの捉える課題の根本は社会課題に結びついていることに気づいていました。
「1つの企業に対するソリューションではなく、複数の企業やステークホルダーをつなげ、社会全体の課題解決に取り組みたい」と考えていた時に当社としても公共事業部が立ち上がり、リーダーを担当することになりました。
とはいえ公共事業は知らないことが多く、当初は「どのようにしたら周囲から共感を得て、同じ方向に進んでいけるか」「自分はどういったリーダーシップを取るべきなのか」など悩んでいました。フィールドスタディに参加したのはそのタイミングでした。
実際に参加して印象的だったのは、「左脳的な気づきと右脳的なスパーク」を得たことです。
右脳的なスパークとは、「自分自身に起こった震えやゆらぎ」といえるかもしれません。東日本大震災の被災地を訪問したり、現地の南相馬や女川の方々と対話したりするなかで「今まで自分が目指していた”周囲からの共感を持って同じ方向に進んでいく”というチームカルチャーの醸成は、南相馬や女川の訪問を通じてできるんじゃないか」と気づきました。
同時に、社会人になった時に解決したいと思っていた社会課題を思い出し、「今の自分の知識や経験と組織のリソースを組み合わせたら、解けない課題はない」と考えるように。これらが火花となって自分のなかに広がっていき、やがて火になっていった感覚です。
他のメンバーもこのような経験をしたら、自分が目指すことに共感する人が増え、チーム全体が同じ方向に進めるのではないか……。これが「左脳的な気づき」です。フィールドスタディ参加時、「公共事業部でマルチステークホルダーによる社会課題解決を実現したい」と考えていたのですが、このような中長期的かつ抽象度の高い課題解決に社内のメンバーが共感し、ついてくるのか?という不安もありました。
しかしフィールドスタディに参加し、現地に行くことで社会課題に対する解像度が上がったので、他のメンバーもこのプログラムを経験したら自然と共通認識が生まれるのだと考えたのです。そこから何名ものメンバーがフィールドスタディに参加しています。
同時に、南相馬や女川を見て感じたことを周囲に発信していきました。具体的にはリーダーメッセージとして社内に共有したり、チームの全体会議で伝えたりしました。
実はこれまで「コンサルタントのあるべきリーダーシップの姿は、自分をさらけ出さず理路整然と物事を進めて、誰がやっても同じ成果を出せること」だと考えていました。しかしフィールドスタディを通じて、ロジックだけではなく私の感性も出すことで、他のメンバーの共感を得られるのだと考えるようになりました。たとえば自分が怒りを覚える社会課題や、「もっとこうなったらいいのに」というビジョンなどを積極的にメンバーに共有するようになりました。このリーダーシップのあり方は、今では自分の強みの1つにもなっています。
多くのメンバーは私の話に関心を持ってくれ、彼らのアイデアと知識も相まって良いディスカッションに発展することもあります。また、私の考えやビジョンを普段から周囲に話してベースを作っておくと、いざ事業を提案したときに「一緒にやっていこう」と思ってもらいやすいと感じています。
異なるスキルを持つ人材を結びつけ、社会課題解決の加速へ
小沼:フィールドスタディ後、2019年にSocial Impact Initiative(以下、SII)を立ち上げましたよね。その経緯とSIIについて教えてください。
宮城:SIIは大企業、パブリックセクター、アカデミア、NPOなどを巻き込んでコレクティブ・インパクトのアプローチによる社会課題解決のシステムをつくることを目指した取り組みです。
SIIを設立した2019年頃はESGやSDGsの流れが加速しつつありました。また、社内には私と同じく「事業を通じた社会課題解決に取り組みたい」と考えるメンバーがおり、「同じ課題意識があり、解決の手段を持っている人材を組み合わせたら、解けない社会課題はない」と考えてSIIを立ち上げました。
これまで「異なるスキルを持つ人材を結びつける」という視点はなかったのですが、フィールドスタディでの気づきを経て、社内で同じ志を持つメンバーをつなげたら何かできるのでは……と思うようになったのもSIIを立ち上げた背景の1つです。
まずは社内のカルチャー醸成に向けて「より良い社会を作りたい」という思いを持った有志が部門や役職を超えて集結し、「ソーシャルイノベーションの創出支援」「社会的インパクトマネジメント手法の確立」「社会的インパクト投資の普及」という3つのフレームワークを通じて社会にアプローチしていくことをミッションに活動しています。最初は4,5名だったメンバーも今では1,000名規模に拡大しています。
小沼:2024年にはチーフ・インパクト・オフィサー(以下、CIMO)を設置し、宮城さんが担当されることになりましたが、SIIの活動がCIMOに発展した背景を教えて下さい。
宮城:SIIでの活動を通じて社内のカルチャー醸成は成功していましたが、プロボノが多くインパクトがまだ限定的でした。クライアント企業の経営課題の先にある社会課題の解決をマルチセクターで実現するために、より持続的な形で事業を通じた社会課題の解決に取り組みたい……というのがCIMO立ち上げ背景の1つです。
他にも社内の人材育成を加速させたい、先駆者としてマルチセクターによる社会課題解決に取り組み、他社に事例として示していきたい、など複数の理由があります。
また、社内を見ているとコンサルタントが直接向き合うのはクライアントであり、その先にある社会課題そのものではないという職業の特性もあって「自分の仕事がどのように社会とつながっているか」を結びつけて考えづらい現状があります。CIMOでの活動を加速することで、より多くのメンバーが「自分と仕事と社会のつながり」を実感し、事業を通じて持続的に社会課題の解決を推進できる組織にしていきたいとも考えています。
***
後編ではCIMOの役割の一環として実施した同社社員のクロスフィールズへの出向や、今後の展望について深堀りました。以下より、ぜひご覧ください。