経産省が進めるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは?定義や事例、実践に向けたポイントをご紹介!
2023年に「SX銘柄」が誕生するなど、最近よく耳にするSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)。経済産業省が提唱したこの概念について、今回はSXの定義や国の取り組み、企業の実践事例や実現に向けたポイントについてお伝えします。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは
まず経済産業省によるSXの定義や、SXが生まれた背景についてお伝えします。
経産省によるSXの定義
経済産業省は以下のようにSXを定義しています。
つまりSXとは社会・地球環境が持続することを目指しながら、企業は利益創出をしていく概念だと言えるでしょう。また、時間軸を長期で捉えていることも特徴です。
経済産業省は企業がSXを実現するにあたって ①企業としての「稼ぐ力」の持続化・強化 ②社会のサステナビリティを経営に取り込む ③企業と投資家による対話 の3つが重要だとしています。(それぞれの詳細については、こちらの記事で詳しくお伝えしています)
SXが誕生した背景
SXは2020年に経済産業省が提唱した概念だと言われていますが、その背景には日本企業の収益性が長期的に停滞していることへの危惧がありました。
経済産業省はこの改善に向けた方向性を日本企業に示す意図で、2014年に伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とした伊藤レポートを作成。内容のアップデートを重ね、2023年時点では「2022年 伊藤レポート3.0」までが公開されています。
以下では2014年から2022年までの各伊藤レポートの概要や、SXに関する最近の経済産業省の取り組みをお伝えします。
2014年版の伊藤レポート:中長期的な投資がカギ
2014年に公開された伊藤レポートでは、日本企業がイノベーションを起こす可能性を持ちながら「持続的な低収益に陥っている」という課題が顕在化していることを示しました。
その要因としてあげられたのが、投資家による短期的な投資です。この現状を打開するには、企業と投資家が協力関係を構築することが重要だとしています。つまり企業と投資家がそれぞれ中長期的に投資を行うことで、長期的なイノベーションを起こせるということです。
一方で資本効率性の観点からは、資本コストを上回る「ROE(自己資本利益率)8%の達成」を提言しました。
伊藤レポート2.0:ESGや非財務情報の重要性を提唱
2017年に登場した伊藤レポート2.0では、ESGの概念やその重要性が示されています。企業の「稼ぐ力」を上げるためには、人材や技術などの無形資産や、ESG投資などの非財務情報が重要だと強調。
同時に企業と投資家に向けて価値共創ガイダンスも作成・公開しました。これは企業と投資家が互いの理解を深め、持続的な価値協創に向けた行動の促進を目的としており、投資家が求めている情報や企業が開示すべき情報について説明しています。このガイダンスに基づいた取り組みを開示している企業は審査を経て、「価値共創ガイダンスロゴ」の使用ができることも特徴です。 ESGについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
2019年には伊藤レポート2.0を踏まえて経済産業省が「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を設立。伊藤氏を委員長に置き、各企業の代表者が対話を重ねました。
そして2020年の中間とりまとめで「SX」が提唱され、これからの時代に企業が持続していくには事業活動だけでなく、社会の持続性も同時に実現する重要性が唱えられたのです。
伊藤レポート3.0:SXの実践に向けた取り組みの指針を提示
2022年の伊藤レポート3.0では「SXの実践こそ、これからの日本企業の稼ぎ方の本流となっていく」として、日本企業や投資家に向けてSXの推進に向けて建設的な対話と非連続的な変革を起こし続ける重要性を説明しています。
そのなかで、SXの具体的な取り組みに向けて以下の三点が重要だとしています。
これらの実現には大企業や中小企業・スタートアップ、インベストメントチェーン上の多様なプレイヤーなどを含めた、日本全体で取り組むことが必要だとしています。
経済産業省は伊藤レポート3.0と同時に価値共創ガイダンス2.0も作成・公開しました。これはSXの実現に向けた経営や効果的な情報開示、建設的な対話を行うための具体的なフレームワークを記載しています。
2023年に誕生、SX銘柄とは?
2023年、経済産業省は東京証券取引所と合同で「SX銘柄」を創設しました。SX銘柄とは投資家等との対話を通じて、社会課題やニーズを自社の成長に取り込み、必要な経営改革・事業変革によって長期的かつ持続的な企業価値創造に取り組む企業を「サステナビリティ・トランスフォーメーション銘柄」として選定・表彰するものです。
SX銘柄の目的として、経済産業省は①企業経営者の意識変革と投資家との対話・エンゲージメントを通じたSX推進 ②国内外の投資家に対して日本企業のSXの取り組みを伝え、日本株全体への再評価につなげる の2点をあげています。
今後の流れとしてはSX銘柄評価委員会でSX銘柄の審査基準などを策定後、2023年7月頃から「SX銘柄2024」の公募を開始し、2024年春頃に選定結果の公表を行う予定だとしています。
SX実現に重要な5つのポイント
経済産業省は「SXを踏まえた中長期の時間軸の中での経営や対話についての課題」として、SXの推進に向けて企業や投資家が取り組むべき5つのポイントを提唱しています。
これらを一度に取り組むことは厳しいですが、1つずつ行うことでSX推進につながるでしょう。
以下では具体的な企業事例をお伝えします。
SX実現に向けた企業の取り組み事例
SXの実現に向けて、具体的にどのような方法があるのでしょうか。以下ではパーパスの特定と組織への浸透を図るオムロンと、長期的な視点で事業転換を図る日揮の事例をご紹介します。
オムロン
「企業理念を軸に事業を通じて社会的課題を解決することで、よりよい社会を作ることを目指す」ことを掲げるオムロンでは、グローバル社員による企業理念の実践に向けた取り組みを後押ししています。
例えばTOGA(The OMRON Global Awards)では自ら社会的課題を見つけ、社内外のパートナーと共に新たな社会価値の創出に取り組んだ社員を表彰。また、社会課題起点も持つリーダー人材育成にも力を入れており、グローバル社員がオンラインで社会課題の現場へ越境し、グローバルリーダーとして自身のミッションを磨いていく研修などを実施しています。(研修についてはこちらの記事をご覧ください)
日揮
日揮は長期的な社会へのインパクトも鑑みて脱炭素に注力し、火力発電事業から転換をはかっています。具体的には社会のニーズに応える新規事業を数々手掛けており、植物油を航空機の燃料に活用するプロジェクトや、福島県・浪江町を舞台に陸上養殖設備で魚を養殖して食糧問題に取り組むプロジェクトなどを開始しています。
同社は越境学習プログラムなどを通じて新規事業に取り組む社員を育成してきた背景もあり、SX推進には人材育成も重要だといえるでしょう。同社による越境学習の一つ、留職プログラムの導入事例はこちらよりご覧ください。
SX実践に向けてできること
企業事例からもわかるように、SXの推進に向けて必要なことは企業が戦略を立てるだけではなく、社員一人ひとりがSXの実践に向けた意識を持ち、行動を促していくことが大切です。そのための方法は様々ですが、意識浸透の社内研修も効果的だといえるでしょう。
特に座学だけでなく、「SXがなぜ重要なのか?」「自分は社会のサスティナビリティ実現に向けて何ができるのか」等を主体的に考えてもらうことが大切です。
具体的には社会課題の現場に社員自らが足を運び、当事者の話を聞いて知見を深めるフィールドスタディや自ら社会課題の解決に取り組む留職プログラム、VR/360度映像を活用して国内外の社会課題を疑似体験するワークショップの活用などがあげられます。
社員一人ひとりの意識変化でSXの推進へ
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が利益を創出しながら、社会・地球環境が持続することを同時に目指す概念であり、経産省が2020年に提唱しました。2023年にはSX銘柄が創設されるなど、社会的にますます注目が高まっています。
企業がSXを推進していくためには、経済産業省が提唱する5つのポイントをおさえるだけでなく、社員一人ひとりが社会のサステナビリティも考えながら、行動を起こすことが重要です。
NPO法人クロスフィールズでは企業のSXの加速につながるプログラム「社会課題体感フィールドスタディ」や「留職」をはじめ、社会課題の現場と企業で働く人をつなぐさまざまな事業を行っています。具体的な取り組みは公式noteやホームページでご紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
また、SXをテーマとしたイベントなども実施しました。
クロスフィールズ代表・小沼による「SXへの期待と違和感」に関する記事はこちらからご覧ください。