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キャリア自律とは?定義や背景、企業の事例をお伝え

人的資本経営に注目が集まり、人材育成は”投資すべきもの”として経営戦略のレイヤーで取り組むことが求められています。こうした社会的背景もあり、人材育成において「キャリア自律」というキーワードへの注目が上がっています。

今回はキャリア自律が求められる背景や、社員のキャリア自律を支援する具体的な企業事例をお伝えします。

キャリア自律とは

そもそもキャリア自律とはどのような意味を持つのか、また注目されている背景について以下で説明していきます。

キャリア自律の定義

キャリア自律はアメリカで生まれた概念だと言われています。同国のキャリア・アクション・センター(Career Action Center:CAC)によると、キャリア自律とは「日々変化する環境のなかで、継続的かつ積極的に自身のキャリア構築と学習に取り組むこと」と定義されています。

似た言葉に「キャリア開発」がありますが、キャリア自律とキャリア開発の違いはその形成方法にあります。従来型のキャリア開発は所属企業の業務や研修を通じて実施され、自身の経験や特性に基づいて「今の自分にマッチする仕事を見つけるもの」でした。

一方で「キャリア自律」は、社員一人ひとりの意思による継続的な学習によって形成されます。社会変化のなかで自身の可能性やキャリアは変わり続けるという前提のもと、新たな気づきや自己変容に焦点を当て、柔軟性を持って自身のキャリアを切り開いていくことがキャリア自律の特徴です。

キャリア自律が注目される背景

なぜ今、キャリア自律が注目されているのでしょうか。その背景には日本における雇用慣行・制度の変化や、働き方の多様化など様々な要因があります。

終身雇用や年功序列制度の崩壊

キャリア自律が求められる背景として、終身雇用や年功序列制度の崩壊があげられます。今や右肩上がりの経済成長を前提にした、「一つの企業に入社すれば定年まで安泰」という認識は崩壊。勤続年数ではなく成果で評価をする企業はますます増え、年功序列を前提とするキャリア観は変わりつつあります。社員は用意されたキャリアを進むのではなく、自身でキャリア構築していくことが求められているのです。

ジョブ型雇用の普及

高度経済成長期以降、日本ではメンバーシップ型雇用が取り入れられてきました。しかし、1990年代以降の労働力人口減少やグローバル化の流れの中で、生産性や専門スキルを高めるジョブ型雇用が注目されるようになりました。ジョブ型雇用とは職務の責任や重さ、必要なスキル・能力を測定して職務の価値を決める考え方です。企業は労働者の職務と成果に対して報酬を支払います。

日本経済団体連合会(経団連)は2022年に「ジョブ型雇用の導入・活用の検討が必要」との方針を打ち出しています。新型コロナウイルス感染症の影響からテレワークや在宅勤務制度を導入する企業が増え、仕事の成果がわかりやすいジョブ型雇用を求める動きも出てきています。

ジョブ型雇用が広まると、個人は希望する仕事に就くため、積極的にスキルアップやリスキルに取り組まなければなりません。ジョブ型雇用は仕事を通じた「会社と個人の対等な取引」が原則となります。キャリアを会社に委ねないジョブ型雇用の普及によって、個人のキャリア自律が必要となってきたのです。

キャリア構築の多様化と個人の労働観の変化 

業務委託や副業など、キャリア構築のあり方が多様化している点もキャリア自律が注目されている背景の一つです。最近は「副業解禁」のニュースをよく耳にしますが、社員が外部での経験をすることでスキルアップし、自社での活躍につながることを期待して副業を導入する企業も多いようです。

また、育児や介護などの事情がある社員や、よりフレキシブルに働きたい社員など、一人ひとりの環境や労働に対する価値観が変化しており、その観点でもキャリア自律が注目されています。

キャリア自律のメリット

キャリア自律が実現すると、企業にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。組織のレジリエンスや生産性、採用活動や社員のモチベーション向上など様々な側面でメリットがあることがわかってきました。

組織のレジリエンスが向上

VUCAの時代と言われ、予測困難な社会情勢が続くなか、これまでの経験だけでは解決できないことも増えていきます。組織として答えのない状況を生き抜くためには、社員が自ら考えて答えを見つけ、変化に対応していかなければなりません。一人ひとりが自律的かつ柔軟に動ける組織はレジリエンスが高く、社会変化に対応できるでしょう。

組織の活性化や生産性の向上につながる

キャリア自律した社員は積極的に学びを深め、スキルや気付きを得て、自らをアップデートしています。そのためキャリア自律した社員は変化が求められるビジネス環境においても組織を活性化させ、新規事業を進める原動力としても期待できます。また、主体的に行動する社員は成果を生み出しやすく、組織全体の生産性の向上にもつながるでしょう。

優秀人材の採用、定着 

キャリア自律が可能な環境は求職者にとって魅力的であり、優秀人材の獲得や定着につながることが期待できます。成長意欲の高い人材ほど、自らのキャリア構築を支援する企業を魅力的に感じるため、キャリア自律できる環境は採用活動でも大きなメリットとなるでしょう。また、キャリア自律を支援することで上司と部下のコミュニケーションが増加し、社員の定着につながった事例もあるようです。

社員の意欲向上 

パーソル総合研究所の調査(2021)によると、キャリア自律が進んでいると学習意欲が1.28倍、仕事の充実感は1.26倍になることがわかりました。キャリア自律度が高い社員のほうが仕事の充実感や人生満足度も高いことから、キャリア自律は組織だけでなく本人にとってもメリットがあることが伺えます。

キャリア自律に向けた具体的な取り組み方法

組織全体として社員のキャリア自律を図るために必要なことは何でしょうか?昨今話題となっている人的資本経営の「人材育成は投資」という考えのもと、社員の自律的キャリア形成は福利厚生などではなく経営戦略として行うべきという前提で見ていきます。

組織全体で取り組む

キャリア自律への取り組みは人事部だけではなく、経営戦略として組織全体で行うことが必要です。そのためには経営者が自律的キャリア支援の意思を共有して指針を示していきます。

また、部長・課長などの管理職が部下のキャリア自律支援ができるように育成する必要もあります。管理職が変われば、現場の社員のキャリア自律の成功につながりやすいからです。そのためにも、管理職自身が率先してキャリア自律に取り組み、自ら学習してアップデートしていくことが求められていきます。

キャリア自律を支援する制度設計

組織の風土醸成と並んで大切なのが制度設計です。キャリア自律を後押しする制度をつくり、社員が活用して自らの学びを深めていくことも大切。そのひとつが副業制度です。

副業制度によって社員が本業以外に興味のある副業を行い、新たなスキルを磨く場として活用できるでしょう。副業で身につけたスキルを本業でも活用することが期待でき、副業は個人・組織にとってメリットがありますが、実施には制度を決めることが必須です。

その他にも社内で新たな職務経験を提供するジョブローテーションや、社員自らがポジションに応募する公募人事なども、社員のキャリア自律につながることが期待できます。

キャリア研修や越境学習を取り入れる

キャリア研修によって社員が自身のキャリアを考える機会を提供することはキャリア自律を促すために有効でしょう。このとき社外に出て新たな視点を獲得し、そこで自身のキャリアや生き方を見つめ直す「越境学習」も効果的です。

キャリア自律に取り組む組織は、越境学習プログラムの導入を視野に入れてもいいかもしれません。越境学習については以下の記事で詳しく説明しています。

キャリア自律の企業事例

実際、社員のキャリア自律に取り組む企業事例はどのようなものがあるのでしょうか。以下ではサイバーエージェントと損保ホールディングスの事例をご紹介します。

企業事例①:サイバーエージェント

サイバーエージェントでは「キャリア自律支援」として、以下の施策を実施しています。

① キャリアについて考え、プレゼンする機会の提供
② 副業など社員のキャリアアップ支援
③ 社内で別のキャリアの選択肢を提示 

これらの施策を行うことで、一人ひとりが自律的なキャリアが開けるだけでなく、フラットにキャリア相談ができる関係性の構築や適材適所の人材配置など、組織全体に好循環が生まれているといいます。

企業事例②:損保ホールディングス

2022年には独自のジョブ型雇用制度を導入するなど、損保ホールディングスではキャリア自律の支援を加速しています。雇用制度だけでなく、人材育成の観点でも越境学習プログラムによる自律型人材の育成を実施。

そのひとつ、「留職プログラム」に参加した社員は、それぞれが自身のキャリア観を見つめ直し、自律的に働くきっかけになったといいます。同社からの留職プログラム参加者については以下のレポートで詳しくご覧いただけます。

組織全体でキャリア自律に取り組むことが大切

キャリア自律とは「日々変化する環境のなかで、継続的かつ積極的に自身のキャリア構築と学習に取り組むこと」と定義されています。

社会変化のなかで自身の可能性は変わり続けるという前提のもと、柔軟性を持って自身のキャリアを切り開いていくことがキャリア自律の特徴です。

社員のキャリア自律は組織全体で取り組むという前提のもと、制度の拡充や越境学習を取り入れたキャリア研修などの方法が挙げられます。まずはご自身の組織で始められることを洗い出し、取り組んでみてはいかがでしょうか。

NPO法人クロスフィールズでは留職プログラムや社会課題体感フィールドスタディなど、さまざまな越境学習プログラムを展開しています。詳しくは公式HPをご覧ください。


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